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学校生活

【校長室より】「ねこはるすばん」とおもいきや

更新日時:2021年1月18日

【校長室より】「ねこはるすばん」とおもいきや

「ねこはるすばん」とおもいきや、おとなしくるすばんしているとおもうなよ

 

『なまえのないねこ』で昨年の絵本屋さん大賞はじめ講談社絵本賞など4冠を受賞した町田尚子さんの最新作『ねこはるすばん』のご紹介です。表紙の「ねこ」の表情が一癖あって思わず注文した一冊。

 

住人が出かけていったのを確かめて、飼い主が買ってくれたであろうかわいい花柄の首輪をその辺にほっぽらかして、「ねこ」は箪笥の扉を開けて中に入っていきます。「おとなしく待っててね」と留守番を頼まれたはずの「ねこ」はひとりでどこに行くのでしょうか。太い木のほらから出てきた「ねこ」は大きく伸びをすると「ひげのむくまま」に二本足で出かけます。猫舌なので熱いコーヒーをふうふう吹きながら一息ついた「ねこ」は理髪店で身だしなみを整え、本屋に行き、それから期待に胸をわくわくではなくしっぽを膨らませて映画鑑賞をします。楽しい時を過ごした「ねこ」は公園のブランコに座って、えさをついばんでいるハトを見ながらパックの牛乳を飲んでから家路につきます。

 

表紙の、「にんげんは、でかけていった」ことを確かめたときの「キラン」と光る目、バッティングセンターでボールを狙う時の真剣な目、そして何事もなかったかのように「ちゃんとお留守番できたよ」玄関で飼い主を迎えるときのかわいい目。猫の心が手に取るようにわかる本です。猫が出かけて行ったときの部屋はきちんとしていたのに、冒険を終えて部屋に戻った時は散らかり放題。クッションはあちこちに散らばり、猫のぬいぐるみは部屋の隅にころがっています。猫の留守中に何があったのでしょう。ここにも著者の町田さんのメッセージがあるらしい。猫はもう一匹いて、その猫が部屋を散らかしたのでしょうか。町田さんはいくつかの答えを用意していると言いますが、部屋の変化は絵本を見た人の想像に任せるということです。

 

主人公の茶トラの猫は町田さんが飼っている二匹の猫がモデルということですが、猫特有のしぐさや顔の表情の変化が面白い。かわいいだけでなく実にしたたかなんです。二足歩行しているときの後ろ脚の肉球とかしっぽの動き、回転寿司屋でわざわざ「ちゅうとろ、さびぬきでね」と注文するときの満足そうな表情など、ページをめくるたびに異なった猫の表情を見ることが出来ます。主人公の猫も背景も油絵タッチで描かれていますが、細かいところまで念入りに描かれています。『ネコヅメのよる』2016)、『なまえのないねこ』2019)と並んで『ねこはるすばん』は私の大好きな絵本のうちの一冊です。