OTSUMA TAMA Junior and Senior High School

学校生活

【卒業式式辞】学校長より34期生の皆さんへ

更新日時:2021年3月17日

【卒業式式辞】学校長より34期生の皆さんへ

中学3年生(34期生)

2020年度 大妻多摩中学校卒業式

みなさん、大妻多摩中学校ご卒業おめでとうございます。

今年度は新学期からステイホームに伴って、生徒のみなさんは自宅でオンライン授業を受けざるを得ませんでした。中学三年生のみなさんにとっては、高校進学とその後の進路を決めるなど、いろいろと考えなくてはならないことがたくさんあったと思います。延期ではありましたが体育祭や文化祭も行われましたが、中学最高学年として下級生をリードする立場で無事行事を行うことができたのは皆さんの自信につながったと思います。 中学生活の集大成である修学旅行が中止されたのは残念でしたが、平和に対する気持ちは、今広島に行かなくても学べます。

この一年にわたる新型コロナウィルスの世界的蔓延により、海外への渡航も出来ず、経済も停滞していますが、人類数千年の歴史において感染症の流行は人口が都市に集中し、隣国や海の向こうの国々との交流が始まった紀元前の時代から繰り返されてきたのです。つまり人類の歴史は、文明の発達とともに発生した感染症の流行と、それを抑える薬の発見の歴史と言ってもよいのです。

おもに中世ヨーロッパで流行したペストは、沈静化しては流行を繰り返しました。16世紀には南米で天然痘、19世紀にはヨーロッパでコレラが流行、20世紀に流行したスペインかぜでは、全世界の死者は5000万人とも言われています。日本でも結核、コレラが流行し、スペインかぜでは40万人が亡くなったそうです。これに対して、種痘の開発や結核菌の発見、さらにペニシリンやストレプトマイシンが発見されるなど、人類は感染症と戦ってきました。

みなさんは児童文学作家でファンタジー作家の上橋菜穂子さんをご存知でしょうか。『精霊の守り人』に始まる「守り人シリーズ」や『獣の奏者』などの執筆によって国際アンデルセン賞を受賞した作家ですが、その上橋さんの『鹿の王』は山犬にかまれて発症する黒狼病の感染とその治療法を巡って展開します。上橋さんはコロナ感染の真っ最中だった昨年7月に、『鹿の王』の執筆の6年前を振り返ってこのように書いています。「本の執筆中には考えられないことが今起きている、私たちは今歴史を作っている。ウイルスとは安定しているものを揺さぶって壊し、生態系を絶えず変化させ続けるような役割をしているのではないか」。また上橋さんはこうも書いています。「100年前の流行性感冒「スペインかぜ」の時代には持っていなかったような視野とネットワークを私たちは持っているのだから」乗り越えられないはずはないと。

人間が他の動物と異なる点は、まだ起きていないことを想像して思考する能力と、思考したことを他者と共有する能力を持っていることだと上橋さんは言います。新型コロナウィルスはG7のような先進国だけでなく発展途上国にも等しく感染を拡大しました。毎日の報道を見ていると、国境を超えて世界中のさまざまな分野の研究者が連携してワクチン開発のネットワークができつつあり、つい先日も日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4カ国が途上国のワクチン供給の枠組みを検討していることが明らかになりました。

上橋さんは『鹿の王』の続編のあとがきの最後にこう書いています。「私たちの武器は知識と想像力と忍耐力、そして他者を助けたいと思う気持ちです」と。ワクチン接種には富める国も貧しい国も関係ありません。世界各国が協調してこそコロナ感染を抑えられるのですから。

「自立自存」「寛容と共生」「地球感覚」、この3つは大妻多摩中高の教育理念です。自信をもって自らの意見を述べ、他者に対して思いやりの気持ちを持ち、視野を世界に広げようという意味ですが、身近な問題だけでなく、外へも目を向けて知識を広めていただきたいと思います。