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【校長室より】サクラ咲く

更新日時:2021年2月15日

【校長室より】サクラ咲く

「サクラ咲く」

 

最近の合格発表は学校のHPに掲示されますので合否がすぐにわかりますが、インターネットのない時代、合格が発表されると学校の近くに住む知り合い(かアルバイト)に頼んで合格番号を見てもらい、すぐさま電報で知らせるというシステムがありました。その電報の文面が「サクラサク」、不合格の場合は「サクラチル」が定番でした。この電文は1956年(昭和31年)に早稲田大学から始まり70年代ぐらいまで続いたそうです。大学によって文面は異なり、北海道大学は「エルムハマネク」、山形大学は「ジュヒョウカガヤク」、静岡大学は「フジサンチョウヲセイフクス」など、大学ごとに趣向を凝らした電文があったそうです。(インターネットより)

 

『かがみの孤城』で2018年の本屋大賞を受賞した辻村深月さんの2014年の短編集の一編に「サクラ咲く」があります。主人公の塚原マチは若美谷中学の1年生。字がきれいだからと学級委員会の書記に推薦され、断り切れなかったマチは、優柔不断な自分の性格を後悔しますが、クラスメートの納得の表情を見て引き受けることにします。

 

マチが一人になりたいときに行くのが図書館。リザ・テツナーの『黒い兄弟』を棚から見つけたマチがパラパラとページをめくったときに一枚の便せんがはらりと落ちるのに気づきます。「サクラチル」、その便せんにはそう書いてありました。次に図書館に行ったとき、手にしたウェブスターの『続あしながおじさん』にはさんであった便せんにはこんなことが書いてありました。「みんなが自分を見て、笑っている気がする。どうして、みんなにはっきり自分のことが話せないんだろう」。エンデの『果てしない物語』、ハインラインの『夏の扉』、C.S.ルイス『ナルニア国物語』第一巻の『ライオンと魔女』、マチが読みたい本を手に取るたびに、そこには便せんに書かれたメッセージを見つけるのです。本に挟まれたメモの返事を書いているうち、そのやりとりは次第に交換日記のようになっていきます。たまたまマチと本の好みが似ている人? 知っている人? その人は夏休みの自由研究を一緒にやったみなみ、恒河、奏人の中にいる?

 

月日が経つにつれて、相手がわからないままマチはメモを書いた相手に自分の弱みをさらけ出せるようになります。自分はほんとうは臆病で、人に嫌われるのがこわくていい子になっているのだと。マチが中学に入るときの目標は「はっきりと自分の意見が言えない性格を直したい」ことでした。

 

「人はただ 風の中を 迷いながら 歩き続ける その胸に、はるか空で 呼びかける 遠い日の歌」「人はただ 風の中を 祈りながら 歩き続ける、その道で いつの日にか めぐり合う 遠い日の歌」「人は今 風の中で 燃える思い 抱きしめている、 その胸に 満ちあふれて ときめかす 遠い日の歌」(岩沢千早作詞、橋本祥路作曲)

 

マチたち中学1年生は3年生を送る歌として「遠い日の歌」を選びますが、マチの心は歌詞と呼応して揺れ動きます。百科事典に「サクラサク」と書いて挟んだのは誰なのでしょう。勉強にもスポーツにも自信のある生徒、不登校になり保健室と図書室しか自分の居場所を見つけられない生徒、引っ込み思案で自分の思ったことを言えない生徒。「サクラ咲く」は一年間の四季の移ろいを追いながら、子どもから思春期にさしかかる中学一年生の不安と希望が描かれています。

辻村さんの作風は、時空を超えたミステリーや、死を予感させるようなストーリー展開など読む人を引きつけてやみません。中学生の心理をよく理解している「サクラ咲く」は、辻村さんの学園ドラマのなかでも、これからの人生を生きる上で希望が感じられる温かい作品です。

 

2月は受験の季節。そして一年中で一番寒くてインフルエンザなどの多い月。今年はそのうえコロナウィルスの世界的蔓延という不安がつきまといます。でも大妻多摩キャンパスの桜は確実につぼみを膨らませています。3月末には満開になる桜並木、みなさんのところへもきっと「サクラ咲く」の知らせが届くことでしょう。お祈りしています。