【校長室より】アメリカ大統領選バイデン氏勝利宣言と、再評価される過去の敗北宣言
更新日時:2020年11月21日
写真1:バイデン、ハリス勝利宣言 (出典:毎日新聞)
アメリカ大統領選バイデン氏勝利宣言と、再評価される過去の敗北宣言
11月3日のアメリカ大統領選開票から5日たった7日、なかなか勝敗の決着はつかず、トランプ候補は敗北を認めないまま、当選確実を手にした民主党バイデン候補はジル夫人、ハリス上院議員夫妻を伴って勝利宣言をしました。これまではどちらかというと自信がないようにみえたバイデン候補でしたが、勝利宣言ではうってかわって力強く自身の勝利をアメリカ国民に印象づけました。
I pledge to be a president who seeks not to divide, but to unify. Who doesn’t see red states and blue states, only to sees the United States.
私は分断させようとするのではなく結束を求める大統領になることを誓います。赤い州(共和党)や青い州(民主党)ではなく、ただアメリカ合衆国を見ることだけを誓います。
さらに対立候補であるトランプ氏については次のように語っています。
All those of you who voted for President Trump, I understand the disappointment tonight.…But now, let’s give each other a chance. We need to stop treating our opponents as our enemies. They’re not our enemies. They’re Americans. This is the time to heal America.
トランプ大統領に投票した人は今夜がっかりしていると思いますが、お互いにチャンスがあります。私たちは対抗相手を敵とみなすのをやめなければなりません。彼らは敵ではないのですから。彼らはアメリカ人なのです。今こそアメリカの傷を癒すときです。
*********
通常の大統領選では敗者が敗北宣言をしたあと、次期大統領が勝利宣言をすることになっています。今回の大統領選では開票から2週間近く経過してもトランプ大統領は敗北を認めていません。このような中、今アメリカで注目されているのは過去の大統領選における潔い敗北宣言です。中でも2008年のアメリカ大統領選挙で民主党のバラク・オバマ(Barak Obama)に敗れた共和党のジョン・マケイン(John McCain)の敗北宣言が今ネット上で大きく注目されています。ベトナム戦争で海軍パイロットとして従軍し、襲撃されて捕虜となってきたベトナムに抑留された経験もあるマケイン氏は、初の黒人大統領であるオバマ氏の勝利が決定した11月4日に敗北宣言を行い、オバマ大統領をたたえてアメリカ国民としての団結を呼びかけました。以下はその抜粋です。
This is an historic election, and I recognize the special significance it has for African-Americans and for the special pride that must be theirs tonight.
今回は歴史的な選挙です。今回の選挙がアフリカ系アメリカ人にとっていかに特別な意味があるか、そして今晩アフリカ系の人々がいかに誇らしく思っているかを私はよく理解しています。
Sen. Obama and I have had and argued our differences, and he has prevailed. No doubt many of those differences remain. These are difficult times for our country, and I pledge to him tonight to do all in my power to help him lead us through the many challenges we face.
オバマ上院議員と私は論争を重ねてきましたが、彼が勝ちました。多くの相違点が残っているのは確かです。これらの相違点はアメリカが困難な時代にあるからであり、アメリカ人が直面する多くの課題を乗り越えるために、彼が私たちを導いてくれるのを助けることに私は最善を尽くすと今晩誓います。
Whatever our differences, we are fellow Americans. And please believe me when I say no association has ever meant more to me than that.
私たちの相違がどのようなものであっても、私たちは同胞のアメリカ人です。そしてどうぞ私を信じてください。私にとってこれ以上のものを意味する関係はないのですから。
Tonight-tonight, more than any night, I hold in my heart nothing but love for this country and for all its citizens, whether they supported me or Sen. Obama, I wish Godspeed to the man who was my former opponent and will be my president.
今夜は、いかなる夜よりも、私の心はアメリカとすべてのアメリカ人に対する愛情以外のものはありません。彼らが私を支持してくれたにせよ、オバマ上院議員を支持したにせよ、その気持ちは変わりません。そして私はかつての対抗相手であり、これからのアメリカ大統領になるオバマ氏に神のご加護がありますようにと祈ります。
マケイン候補がオバマ氏をたたえるたびに沸き起こるブーイングを制止しつつ、地元のアリゾナ州フィニックスで支援者たちに囲まれて潔く敗北宣言をしました。彼は初の黒人大統領となるオバマ氏をたたえ、次期大統領のために善意と真摯な努力を提供することを惜しまないよう、アメリカ人は党派を超えて一つになるべきだと訴えたのです。
********
そしてここにもう一通、ホワイトハウスに残された手紙の文章が、今改めて高く評価されているのです。それは1992年の大統領選挙で敗北したジョージ・ブッシュ(George H.W. Bush父)がビル・クリントン(Bill Clinton)に残した手紙です。以下に引用するのは第三段落目からです。
There will be very times, made even more difficult by criticism you may not think is fair. I’m not a very good one to give advice; but just don’t let the critics discourage you or push you off course. You will be our president when you read this note. I wish you well. I wish your family well .
これからは困難な時が来るでしょう。あなたが理不尽と感じる批判にさらされることによって、さらに苦境に立たされるかもしれません。私はアドバイスをするのに適任ではありませんが、批判によってくじけたり道を外さないようにしてください。このメモを見るときにはあなたはもう大統領になっているでしょう。あなたとあなたのご家族のお幸せをお祈りしています。
職務を引き継ぐにあたって、なんと心温まるメッセージなのでしょうか。直接的ではなく、大統領就任後に執務室に足を踏み入れたクリントン氏が最初に目にするのがこのメモというのは、なんと気の利いた計らいなのでしょうか。
アメリカ人は子供のころから対抗相手の功績をたたえて敬意を表するようにと教えられます。過去の大統領選でも敗者による敗北宣言は格調高いものが多く、勝者である次期大統領の健康と成功を神に祈ると結ばれることがほとんどです。11月15日現在アメリカ全州でバイデン候補の勝利が伝えられ、バイデン氏306人、トランプ氏232人という選挙人獲得数が判明しているなか、トランプ氏はどのように敗北宣言をするのかが注目されます。
写真2:ブッシュ(父)からビル・クリントンへの手紙 出典:Fox News