【校長室より】「副大統領、私が(今)話しているのです」
更新日時:2020年11月16日
“Mr. Vice President, I’m speaking”「副大統領、私が(今)話しているのです」
これは、米大統領選で10月7日夜に行われた副大統領候補討論会で民主党のカマラ・ハリス上院議員がマイク・ペンス副大統領に向かって発した言葉です。9月29日に行われたドナルド・トランプ氏とジョー・バイデン氏の大統領候補討論会では、トランプ氏は制限時間が過ぎても話し続け、しばしばバイデン氏の発言を遮って反論を繰り返したことが大きなニュースになりました。トランプ氏はなんと71回もバイデン氏の発言に割って入ったということです。
副大統領候補同士の討論会では、ペンス氏がハリス氏の発言を遮って発言した時に、ハリス氏は冷静に「副大統領、今は私が話しているのですよ。よろしかったらこのまま話してもよいですか」と自分の発言を続けたのでした。この日の討論会ではハリス氏は3回も「私が話しているのです」と言わざるを得なかったといいます。この発言は女性の発言を白人男性が遮った結果だとしてニュースになり、この言葉が記してあるTシャツまで作られたということです。
カマラ・デヴィ・ハリス(Kamala Devi Harris)氏はカリフォルニア州選出の上院議員で、母親はタミル系インド人の乳がん研究者、父親はジャマイカ系の移民でスタンフォード大学経済学教授、そしてカマラはカリフォルニア大学法科大学院で法務博士号を取得している弁護士です。ハリス氏は2020年の大統領選でバイデン陣営の副大統領候補に選出され、女性候補者としては3人目、アジア・アフリカ系アメリカ人としては初の副大統領候補となりました。
ジェンダーの研究者によれば、男性が女性の発言を遮って割り込むことはその逆よりも多く、女性が主張を続けたり男性の発言を遮ったりすると反発を招きかねないというデータが出ているそうです。(BBC News))ハリス氏のペンス氏に対する「穏やかな抗議」には、ハリス氏が女性だからということだけでなく、アジア・アフリカ系というマイノリティだということも関係しているのではないでしょうか。先の研究によれば、ハリス氏はペンス氏から遮られることは前もって予測しており、あからさまに抗議するのではなく、笑顔で「私が話しているのです」と穏やかに言ったことがかえって好印象を与えました。
2020年の大統領選は、19世紀半ばの南北戦争以来の国を二分する争いと言われていますが、皆さんはアメリカの二大政党である民主党と共和党はどのような主張をもっているか、またどのような人々で構成されているかご存知でしょうか。
保守主義の共和党(Republican Party)の支持基盤は農村部、白人男性アメリカ人、福音派キリスト教徒であり、自由主義資本主義、減税、移民の制限、軍事費の増加、銃所持の権利、中絶の制限などが主な主張です。その代表が現大統領であるドナルド・トランプ氏です。一方革新・自由主義の民主党(Democratic Party)は労働者階級、都市部の女性、インテリ、性的・宗教・人種マイノリティが主な支持盤。環境保護、国民皆保健、機会均等、消費者保護、LGBTの権利、移民制度改革、銃規制などを主張しています。代表としては第44代大統領のバラク・オバマがいます。
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なかなか勝敗の決着のつかなかったトランプ対バイデンによる大統領選でしたが、2020年11月7日夜、開票から5日たってようやくバイデン候補の当選が確実になりました。ハリス氏は白のパンツスーツで民主党勝利のスピーチをしました。1920年アメリカ女性が参政権を獲得して今年でちょうど100年、女性参政権運動のシンボルカラーが白であったことからカマラ上院議員は白のスーツを着たと思われます。2016年にヒラリー・クリントンが民主党の大統領候補に選出されたときも白のパンツスーツを着ていましたが、ハリス上院議員はクリントン氏に倣うかのように、「これからはあなたたちも大統領になれる」と幼い女の子たちに向かって、女性が副大統領になることの意味について語りかけました。
But while I may be the first woman in this office, I will not be the last. Because every little girl watching tonight sees that this is a country of possibilities and to the children of our country regardless of your gender, our country that has sent you a clear message: dream with ambition, ......(ABC News)
私は最初の女性副大統領になるかもしれませんが、最後にはなりません。なぜなら今夜この光景を見たすべての幼い女の子たちには、この国は可能性のある国だと分かったでしょう。そして私たちの国は、性別にかかわらず、子供たちに対しても明確なメッセージを送りました。それは希望溢れる夢の実現です。
ここでの‘office’とは「大統領執務室」のこと。‘the first woman in this office’とは「初の副大統領」を意味します。ハリス氏はintegurity(高潔さ)、courage(勇気)、generosity(寛大さ)、equality(平等)、justice(正義)、unity(統一)、decency(礼儀)、truth(真実)、ambition(大志)、conviction(信念)というような単語をスピーチに散りばめました。これらは歴史的にみても「アメリカの良心」を表す単語なのです。