OTSUMA TAMA Junior and Senior High School

学校案内

【校長室より】初めての登校と、ファクターX

更新日時:2020年6月5日

【校長室より】初めての登校と、ファクターX

6月1日から学校が再開しました

昇降口で手指を消毒。自宅での検温を忘れた生徒は、校門で確認します。


生徒の登下校後は、噴霧器で消毒



6月1日より、学年別登校が始まりました。

1日目は中学1年生の初めて登校日でした。大妻多摩の制服を着て初めて正門を通ります。 入学式ができなかったため、初めて担任から名前を呼ばれ、校長先生や教頭先生から入学認定、新入生への言葉、担任からのメッセージを伝えました。


画面越しではなく、直接会う友人や教員の姿に緊張しながらも、大きな声で返事をし、しっかりとした表情で教員の話を聞いてくれていました。

トイレの対策とアマビエさん




ファクターXとは?

新型コロナウィルス感染の第二波、第三波が心配される中、日本では5月25日に緊急事態宣言が全国的に解除されました。感染爆発を起こすことなく感染者の数をある程度抑えられたことに対して、WHO(世界保健機関)のラドロス事務総長は日本の感染防止対策を高く評価しました。人口10万人当たりの死亡者がイギリス、イタリア、スペインで50人を超えているのに対して、日本は約0.56人にとどまったといいます。(感染爆発を起こした欧米と比べて、0.5人以下のアジア、オセアニア諸国の中では日本の死亡者は最も多くなっています。)

 

京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥先生は「新型コロナウィルス情報発信」の中で、感染者の広がりが世界の中で遅い理由について、「ファクターX」という仮説を立て、その「仮説が明らかになれば、今後の対策戦略に活かすことが出来るはず」と書いています。(注:ファクターXとは環境効率を示す指標のこと)

 

山中先生はファクターXの候補として次の事項をあげています。(「新型コロナウィルス情報発信」から転載)

 

・感染拡大の徹底的なクラスター対応の効果

・マスク着用や毎日の入浴などの高い衛生意識

・ハグや握手、大声での会話などがすくない生活文化

・日本人の遺伝的要因

・BCG接種など、なんらかの公衆衛生政策の影響

・2020年1月までの、何らかのウィルス感染の影響

・ウィルスの遺伝的変異の影響

 

山中先生が挙げている中で興味深いのは、日本人の生活習慣が感染防止に役に立ったということです。日本人は冬のインフルエンザ流行に対してもマスクを着けて予防に努めてきましたし、家の中では靴を脱ぐとか毎日の入浴、子どものころから手洗いとうがいも習慣化していて衛生観念が定着しています。

 

日本人の挨拶の仕方も効を奏したといえます。日本人は適度な距離を保ちながら相手と挨拶したり話をしたりします。学校での挨拶は別として、最近の若い人は挨拶の時にあまりお辞儀をしないようですが、社会人になれば会った時と別れるときにはお辞儀は欠かせません。海外でもビジネスマン同士がお辞儀をしている姿を見ると、遠目から見ても日本人だということがすぐにわかります。山中先生も挙げているように、日本人は挨拶の時にハグやキス、握手、ハイタッチなどの身体的接触をしないことも感染防止に役立ったといえます。今は2メートルのソーシャル・ディスタンスを取りましょうと言われていますが、そもそも日本人は、あまり親しくない、あるいは初対面の人と会話を交わすときには、相手と距離を取ります。アメリカの文化人類学者のエドワード・T・ホールは対人距離を、ごく親しい間柄で許される密接距離から講演者と聴衆のような公共距離まで4つに分けて分類しています。ホールによれば、北米に比べてラテンアメリカの人々は会話の時の距離は近くなり、国民性によって、例えば日本人などは家族同士が話をするときの間隔は欧米より小さいが、親しくない人と話すときは大きいといいます。パーソナルスペースとは相手に踏み込まれると不愉快に感じられる空間のことですが、これは文化圏によって異なり、ある文化の人々にとっては快適でも、異なる文化の人々にとっては不愉快に感じられる対人距離もあります。学会のパーティなどでも、ラテン系の人に大声で陽気に話してこられると、日本人は壁際まで後ずさりしてしまったり、パーティ慣れしていない日本人は、一定のパーソナルスペースを超えて相手に近づかれると落ち着かない気分になるものです。

 

山中先生は日本人の「大声での会話が少ない生活文化」を挙げていますが、これは「大声」というより、日本語と外国語(特に英語)の発音の違いではないでしょうか。日本語は高低で話し、比較的平板なのに対して、英語は強弱で話し、ストレスとイントネーションが重要です。日本人が発音しにくい英語の音に破裂音がありますが、これは口の中の部分を閉鎖して一気に呼気を出す(破裂させる)音のことで、pt、k、を指します。英語の破裂音は呼気(飛沫)を伴います。日本語は子音と母音が合体して音を出すので、子音だけ単独で発音することはありません(ぱpa, ta, kaのように)。一方英語では、破裂音の中でも無声音のpt、kは有声音のb、d、gよりも発音するときに勢いよく呼気を出して発音しなくては正しく聞き取ってもらえません(pigkey, teaのように)。私は観劇のためニューヨークによく行っていましたが、現代劇よりシェイクスピア劇のような壮大な悲劇などでは、激高した場面などシャワーのように俳優のつばが飛ぶので最前列の席を絶対に予約しませんでした。

 

いずれにしても、日本人の生活習慣がコロナ感染拡大を妨げたのは本当のようです。日本人が国や都からの要請をきちんと守るまじめな国民だということも幸いしていたのかもしれません。ワクチンや治療薬が発明されない限り、わたしたちは新型コロナウィルスとともに生活しなくてはなりません。これからも日本人は正しい生活習慣を守りながら、自分と家族、そして社会を守る姿勢には変わりないと思います。