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【校長室より】高校 卒業式式辞【2019年度】

更新日時:2020年3月17日

【校長室より】高校 卒業式式辞【2019年度】

 3月17日高校卒業式が大講義室で行われました。

 保護者の方の列席もなく生徒と教員のみが出席し、時間を短縮しての式でしたが、生徒にとっても思い出深い卒業式になったと思います。式の様子は先生型の連携の元、動画に収めましたので後日閲覧URLをご連絡致します。(高3生徒・保護者のみ閲覧可能)



卒業式式辞

 高校3年生のみなさん、大妻多摩高等学校ご卒業おめでとうございます。
 今年度は、コロナウィルス対応の措置として、保護者の皆様や来賓の方のご列席がかなわないまま卒業式をしなくてはならないのはとても残念です。卒業に際してみなさんはこれまで育ててくださったご両親やご家族のかたに必ず感謝の気持ちを伝えてください。
このような非常事態は今までにもありました。今から9年前の2011年、東日本大震災の時にも卒業式が行えず、私も勤務校の大学の教室で卒業証書を渡したことを覚えています。


 ヒトとモノとカネと情報、つまり文化的、社会的、経済的な関係が国境を越えて拡大する状況をグローバリゼーションと言いますが、このコロナウィルスの世界的蔓延は、ヒト、モノ、カネの停滞という異常事態を引き起こしました。日本だけでなく世界中のメディアはさまざまな情報を日々発信していますが、ここで大切なのはメディアによって誇張された情報に惑わされることなく、落ち着いて冷静に対処する能力です。


 さてみなさんは、令和元年度という歴史の節目の年に卒業を迎えられ、これからは自分の目標に合わせて別々の世界に踏み出していくことになります。今までのこの大妻多摩での守られた環境から、なんでも自分一人で考え挑戦できる未来が待ち構えています。目の前の小さなことだけではなく、日本という枠を超えて世界に羽ばたいていただきたいと思います。


 近年皆さんと同年代の生徒や学生、というより10代の少女が社会を変えるアクションを起こして、世界の注目を浴びることがありました。まず、2017年には史上最年少の17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタン人のマララ・ユスフザイさんがいました。彼女は2013年の国連総会で、SDGsの採択に先立ち、若者の代表として、平和のためには教育こそが重要だと訴えました。


 次に紹介するアグネス・チョウさんは現在香港バプティスト大学4年生。16歳のときに国民教育反対運動に参加したアグネスさんは、18歳のときには香港の民主化運動に加わり、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案の撤回を求める抗議行動の先頭に立ちました。


 そして昨年後半に特に世界中のメディアで注目されたのは、地球温暖化対策を訴えて、2018年にスウェーデンの国会議事堂前で一人で座り込みを始めた16歳の高校生グレタ・トゥーンベリさんです。


 この三人に共通するのは何だと思いますか?それは女子生徒の勇気と決断、SNSと外国語ということです。


 マララさんは反政府武装勢力タリバンの支配下に置かれていた2007年に、名前と年齢を隠して、公用語のウルドゥー語で女子教育の重要さを訴えました。そのブログが英語に翻訳されてBBCのブログに掲載されることによって大きな反響を呼ぶことになります。学校に通って英語を学んだマララさんは、国連総会においても、ノーベル平和賞受賞時も、英語でスピーチをしました。


 日本の文化、特にアニメやアイドルにも詳しい大学生のアグネスさんは、日本のメディアのインタビューでも流暢な日本語で答えています。かつて民主化の女神とも呼ばれ、香港警察に一時拘束されたアグネスさんたちは、SNSを使ってデモの参加を呼びかけ、2019年には小学生を含む200万人デモへと膨れ上がりました。


 地球温暖化対策を訴えるグレタさんはストライキを始めた初日に、自らの姿を自撮りしてSNS上に載せたことから世界中の若者の共感を呼びました。グレタさんの母語はスウェーデン語ですが、SNS上では英語で発信し、EUや国連でも流暢な英語でスピーチしています。スペインマドリッドで行われたCOP25ではスペイン語と英語でスピーチをしています。


 このようにSNSと外国語はグローバル社会で欠かせないものです。みなさんは大学に進学しても英語はもちろん他の外国語の習得とインターネットの利用はとても重要なことになってくるでしょう。

実はここからが今日本当にお話ししたいことなのです。


 元一橋大学学長の阿部謹也先生が授業中にこのようなことをおっしゃったといいます。「一橋大学の学生の知的レベルが劇的に下がったと感じたのは、生協にコピー機が導入されたときだった」。 かつて阿部先生は博士論文を書くためにドイツの図書館に通って古文書を一字一字書き写すことによってドイツ中世史の真髄まで到達したということです。古い本は破損する恐れがあるのでコピーはできないので手で書き写すしか方法がないのです。稀覯本を所蔵している図書館では、インクが漏れるかもしれないペンやボールペンは持ち込めず鉛筆を使わなくてはならないのですが、それが今ではパソコンに変わりました。現在ではそれらの古文書はすべてインターネットで閲覧可能です。


 阿部先生はこうおっしゃったそうです。「君たちはノートを写すということなど極めて退屈で無意味な作業だと思うだろうが、皮肉なことに、君たちが侮る作業を機械に頼ることによって、実は君たち自身の質を低下させていることに気付いていない」


 現在中高でも電子黒板にパワポの資料を映して授業を行います。大学でもおそらく板書を書き写すのではなく、パワポの資料をあとでダウンロードして見ることも可能でしょう。板書であってもそれをスマホで撮って記録したつもりになるかもしれません。必要な情報は、図書館で文献を検索しなくてもスマホやタブレットを使えば瞬時に得られると思っている方も多いでしょう。


 しかし、阿部先生がおっしゃるように、自分で資料を調べて書き写したりまとめることによって本当の知識が身につくのです。インターネットの情報は便利ですが、大学に進学すれば学術論文や様々な文献や資料を読み解く必要が生じます。是非とも自分の頭と目と手を使って理解を深め、得られた知識を自分のものにしていただきたいと思います。


 改めてみなさん、ご卒業おめでとうございます。
 保護者のみなさま、お嬢様方のご卒業を教職員一同お祝い申し上げます。