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【校長室より】映画版 『キャッツ』

更新日時:2020年2月17日

【校長室より】映画版 『キャッツ』

映画版『キャッツ』


『キャッツ』(Cats)といえば、日英米でロングランを記録したイギリス発のミュージカル。アンドリュー・ロイド・ウェバーの美しい曲が有名です。原作はイギリスの詩人で文学者のT.S. エリオットが書いた子ども向けの詩集『キャッツ-ポッサムおじさんの猫とつきあう法』(The Old Possum’s Book of Practical Cats)。



ミュージカルは大きく分けてイギリス発とアメリカ発に分かれますが、最近ではイギリス発の作品がニューヨークで大ヒットしたり、またその逆もあります。イギリス発のミュージカルといえば『オペラ座の怪人』『キャッツ』『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』など歴史・文学作品などドラマ性の高いものが多いです。一方、アメリカ発のミュージカルには『ウェストサイドストーリー』『コーラスライン』『ライオンキング』『シカゴ』などダンスや音楽にすぐれ、絢爛豪華な舞台が繰り広げられます。イギリス演劇といえばロンドンのウェストエンド、そしてアメリカ演劇といえばニューヨークのブロードウェイが有名。それぞれの街あるいは通り沿いに劇場が集中して建てられています。



ミュージカル版の『キャッツ』では、劇場に1歩足を踏み入れると舞台上にも客席の周囲にも靴や壊れたおもちゃや家具などの粗大ゴミが散乱しており、観客自身猫になってゴミ捨て場にいることに気づかされます。オーケストラによるテーマ曲演奏とともに幕が開くと(というより観客と舞台を仕切る幕はありませんが)、舞台や客席のあちこちから猫たちが姿を表します。ミュージカルを上演する劇場には客席の最前列より一段低いところにオーケストラボックスがあり、すべての曲は指揮者のもとオーケストラが生演奏します。



登場人物は長老猫オールド・デュトロノミー、悪役のマキャヴィティ、劇場猫のガス、泥棒猫のマンゴジェリー、落ちぶれた娼婦猫のグリザベラ、ダンスのうまい白猫ヴィクトリアなど。年に一度に催される舞踏会「ジェリクルナイト」に最高のパフォーマンスをした猫がジェリクルキャッツとして選ばれ、新しい命を与えられるというのが大まかなストーリー。人間が一人も登場しない、猫がダンスや歌を披露するこのミュージカルは、1981年にロンドン初演、翌82年にニューヨーク初演、さらに83年には日本で初演を迎え、ロンドンでは21年間、8950回、ニューヨークでは18年、7485回のロングランを記録し、日本でも2010年まで17年間、7486回という上演回数を記録しました。



ロンドン、ニューヨーク、日本公演を見ている私としてはトム・フーパー監督のこの映画の公開が楽しみでしたが、英米の映画評はどれも「最悪!」("Terrible!”)。「アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲の美しい旋律で、誰もが知っているあの素晴らしいミュージカルに、CGなど必要がない」、「高度なデジタル技術を駆使した猫たちの毛並みに度肝を抜かれる」などミュージカルそのものとは関係ない批評が目立ちました。映画は、グリザベラが歌う「メモリー」でクライマックスを迎えるというより、紙袋に入れて捨てられた白猫ヴィクトリアが、ジェリクルキャッツの仲間として認められて舞踏会に参加を許されるというストーリーが中心にすえられています。ヴィクトリアを演じるのは英国ロイヤルバレー団のプリマドンナ、フランチェスカ・ヘイワード。ジェリクルキャッツのトップに君臨するのは85歳になるイギリス演劇・映画界を代表するジュディ・デンチ。もともとオールド・デュトロノミーは男性の役でしたが、今回は、ヴィクトリア女王やエリザベス1世、007シリーズの英国諜報部のボスMなどを演じ、数々の賞を受賞したデンチが演じることになりました。デンチは1981年の初演時にグリザベラの配役を与えられましたが怪我で降板しています。劇場猫を演じるのがシェイクスピア俳優として有名なイアン・マッケラン。そのほか歌手のテイラー・スウィフトが妖艶な雌猫ボンバルディーナを演じています。猫同士の挨拶とか毛繕いなど、俳優たちは「猫スクール」に入学して猫の動きを研究したとか。



俳優たちの体にCGで猫の毛をつけ、それに耳と尻尾をつけた姿に最初は違和感がありましたが、終盤に、グリザベラを演じるジェニファー・ハドソンがオールド・デュトロノミーに招き入れられて「メモリー」を歌い始めると雰囲気は一変し、猫も観客も彼女の歌声に引き込まれました。オールド・デュトロノミーが言うように、「猫と犬は違う」とか「猫にこびてはいけない」とか、猫には猫のルールがあって、猫の独特な生態を理解するのは人間にとって難しいことなのかもしれません。