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【校長室より】『グレタ たったひとりのストライキ』

更新日時:2019年11月18日

【校長室より】『グレタ たったひとりのストライキ』

11月14日付けの朝日新聞によれば、8月28日、18メートルのソーラーパネル付きの競技用ヨットでイギリスのプリマスからアメリカのニューヨークに到着した気候活動家のグレタ・トゥーンベリさんは、9月23日に国連の気候行動サミットに出席した後、チリで行われる国連気候変動枠組み条約第25回締結国会議(COP25)に参加する予定でしたが、開催地がスペインのマドリッドに変更されたために、再び大西洋をヨットで横断することになったということです。温室効果ガスである二酸化炭素排出を懸念するあまり飛行機での移動を拒否しているグレタさんは、ヨーロッパへの帰路も二酸化炭素排出量がゼロのヨットを選びました。行きに使用したヨットが老朽化して使えないため、移動手段を探していたグレタさんのもとにオーストラリア人夫婦が協力の手を差し伸べたということです。


このグレタさんの記事の隣には、「水の都 沈む世界遺産 ベネチア高潮」というタイトルで、イタリアのベネチアの歴史地区が高潮の被害で浸水する被害を受けているという記事が載っています。連日の大雨と満潮が重なってサンマルコ寺院でも70センチまで浸水したと書いてありますが、ベネチアだけでなく世界的な気候変動による海面上昇の影響で、各地で高潮の発生が頻発しているといいます。


「あなたたち(各国首脳を含む大人たち)は私たちを失望させています。しかし若い世代はあなたたちの裏切りに気づきはじめています。未来の世代の目はあなたたちに注がれています。もしあなたたちが私たちを裏切るのなら絶対にあなたたちを許しません。」 


2018年8月にスウェーデンのストックホルムの国会議事堂前で一人でストライキを始めたグレタさんは、約1年後の2019年9月の国連気候行動サミットで、気候変動による地球の危機をこのように訴えました。このスピーチが世界中に発信されるやグレタさんは高校生気候活動家として注目を浴びると同時に、「高校生ならストライキをするより学校に行くべきだ」とか「両親が娘を有名にしたがっている」とか「精神疾患を抱えた少女が怪しげな大人に操られている」などと批判も浴びました。その行動がノーベル平和賞にまでノミネートされたグレタさんは汚染した地球の救世主なのでしょうか。何が彼女を気候活動家にしたのでしょうか。


来日したこともあるオペラ歌手マレーナと俳優スヴァンテの長女として生まれたグレタが気候変動について聞いたのは8歳の時でした。その3年後に発作を起こすようになったグレタは、頭がよすぎて繊細すぎるために学校では仲間はずれにされ、その結果、高機能自閉症と強迫性障がいを含むアスペルガー症候群と診断され特別支援学級に通うことになります。さらに3つ下の妹ベアタも怒りの発作を起こすようになってアスペルガー症候群、強迫性障がい、反抗性挑戦障がいのあるADHD(注意欠陥多動性障害)と診断されます。熱帯雨林の破壊、ベネチア・モルジブ・セイシェルの沈下、カリフォルニアの山火事などの気候変動に強い関心を寄せていた両親は、敏感すぎる故に発作を起こす二人の娘の転地療養にと仕事を中断して家族で外国を旅行して回りますが娘たちの健康状態は回復しません。一方グレタは、地球を救うために温室効果ガスの被害と持続可能性の危機を訴えるために立ち上がろうと決意します。それが2018年8月20日にストックホルムの国会議事堂前でたった一人で始めたストライキでした。彼女は気候と持続可能性の危機について訴えたチラシを持って、自らの姿を携帯で撮ってsnsにアップするとその画像はあっという間に広がり、テレビ局がインタビューに訪れたり、一緒にストライキに参加する若者が集まり始め、3週間後のストライキ最終日には大人と子ども1000人が彼女と一緒に座り込みをしたといいます。


 国連の気候行動サミットで世界中から注目を浴びたグレタさんの偉業の陰には両親と妹の大きな励ましがありました。ストライキを始めたころはまだ弱々しかったグレタさんはストライキ終了時には心身ともに見違えるように成長し、彼女はこの活動を続けることを決意します。これ以降グレタさんは「TED」(ストックホルム)、「国連COP24」(パリ)、「世界経済フォーラム」(ダボス)、「欧州会議」(ストラスブルグ)、「ロンドン会議」、「気象サミット」(ウイーン)などで温室効果ガスの被害を訴えました。マレーナとスヴァンテ夫妻、グレタとベアタ姉妹というトゥーンベリ一家がまとめたのが『グレタ たったひとりのストライキ』(海と月社)です。国連におけるあの力強いスピーチの陰には家族の強い絆があったのです。