【校長室より】ニューヨーク公共図書館
更新日時:2019年8月12日
ニューヨーク公共図書館
ニューヨーク公共図書館はマンハッタンの42丁目とブライアントパークに面したところにあるニューヨーク最大の図書館。この図書館のドキュメンタリー映画『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』が5月から神田神保町の岩波ホールで上映されているのを知っていながら、なかなか時間がなく見ることがかないませんでした。上映時間3時間25分のその映画が夏休み中に多摩キャンパスで上映されると聞いていたのですが残念ながら上映権が下りず、約20分のダイジェスト版が上映されるということで見に行ってきました。
この催しは大妻女子大学の地域連携プロジェクトのひとつで、8月10日に多摩地区の唐木田菖蒲館、唐木田図書館、大妻多摩中高図書館、大妻女子大学図書館を見学したのち、2号館大講堂に場所を移し、主催者の大妻女子大学深水浩司先生の解説のもとに映画のダイジェスト版を鑑賞するという一日がかりの企画でした。参加者は多摩地区にお住いの方たちだけでなく図書館関係者の方たち約40名で、多摩中高の図書館と自習室も時間をかけて見学していただきました。
監督はドキュメンタリー映画の巨匠である今年89歳になるフレデリック・ワイズマン。この作品で彼は第74回ベネチア国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞しています。副題ともなっている「エクス・リブリス」とは本の見返し部分に張ってある「蔵書票」のこと。本の持ち主が、自分の蔵書であることを明らかにするデザインを凝らした票のことです。タイトルにこの言葉が使われているのは「ニューヨーク公共図書館の蔵書」つまり、他のどこでもない誇り高きニューヨーク公共図書館の蔵書というステータスを表しているのでしょう。
ダイジェスト版では、100年以上の歴史を持つニューヨーク公共図書館がニューヨーク「市立」ではなく、ニューヨーク市と民間の寄付による「私立」であること、図書館を知ってもらうために玄関ホールではいつも説明会が行われ、大勢のスタッフが市民の電話相談を終始受け付けているという図書館の裏方の仕事が描かれます。また市内に4つある別館と88ある分室でも様々な企画が行われ、黒人が多い地区などでも特別のサービスや市民サービスが行われている様子がわかります。さらに幹部職員が集まる企画会議では、電子ブックの需要が多くなる中、限られた予算で蔵書として残すべき書籍を購入するか、市民の要求するようなベストセラーを購入するかという議論がなされます。実際には休憩をはさんで3時間半の映画のほんの一部分を見せていただきましたが、それでも市民と図書館員の双方で運営されている様子を垣間見ることができました。
この図書館はニューヨーク市民の知の宝庫としての機能だけでなく、コンサートや結婚式にも使われ、10年以上前のテレビドラマ『セックスアンドザシティ』(1998~2004放映)でキャリーとミスターの結婚式が行われるはずだった場所でもあります。
ところで20年以上前から年に二回ほど訪れていたニューヨーク。公共図書館の前のブライアントパークはカフェやレストランもあり、近くのデリで買ったランチを食べるためのベンチがたくさんあるので、図書館で過ごしたり街を歩き回った疲れをとるのには格好の場所。日本の紀伊国屋書店も近くにあり、二階では日本風お弁当が食べられますし、近所には「千代田寿司」もあって日本人にはなじみのある場所でした。私がニューヨークに頻繁に通っていた理由は演劇を見て批評することと演劇批評を集めること。私はこの本館の図書館にもよく通いましたが、それ以上に頻繁に行ったのは、65丁目にあるリンカーンセンター内のパフォーミング・アーツ部門の別館です。20年以上昔には、この図書館にニューヨークで上演されるすべての劇の劇評の新聞切り抜きが保存されていました。目当ての作品を検索し、その記事を出してもらうのですが、なんと二つ折りの紙ばさみに新聞から切り抜いた劇評が無造作にはさんであるだけ。それをコピー機の上に並べてコピーするのですが、紙ばさみを逆さにすればぱらぱらと落ちてしまうので注意が必要でした。そのうち新聞の劇評は立派な年鑑に収められるか、マイクロフィルムに収められるようになりましたが。大学図書館の劇評も同様に紙ばさみに収まっていたのをみると、それが切り抜きの収納の方法だったのでしょう。現在ではもちろんインターネットで検索すれば演劇評はすぐに見ることができます。
昨日のダイジェスト版で心に残った言葉は「図書館は本を収納する倉庫(書庫)ではなく人である」ということ。これは図書館とは単に貴重な書籍を収蔵するだけでなく、その本を必要とする市民、中で仕事をする図書館員、司書、そしてその管理者と多くのボランティアの人たちによって成り立っているということです。昨日参加なさった図書館関係者の方たちによれば、日本の公共図書館は肝心の人の部分が希薄なこと、つまりどのような図書館を作るか、どのような本を所蔵するかについて個人の意見が反映されにくいということでした。映画上映が終わった後も、熱のこもった意見交換が行われていました。夏休みのひととき、学校関係者以外にはなかなか見ていただけない中高図書館のことを知っていただけたのもよかったと思います。