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【校長室より】『アラジン』-「わたしは黙っていない!」

更新日時:2019年7月15日

【校長室より】『アラジン』-「わたしは黙っていない!」

『アラジン』-「まったく新しい世界」から「わたしは黙っていない!」へ

 

ディズニーアニメに基づいた実写版映画『アラジン』が公開中です。新しいヒロインの登場と話題になっていますが、ディズニープリンセスはどのように変化してきたのでしょうか。

 

ディズニープリンセスというと、まず『白雪姫』(1937米、1950日)の白雪姫、『シンデレラ』(19501952)のシンデレラ、『眠れる森の美女』(19591960)のオーロラ姫の三人が代表格です。この三人はウォルト・ディズニーが実際に関わった作品で、王子が彼女を見いだしてくれるまで待つ従順な姫という子ども向けの童話の結末を踏襲しています。その後30年の時を経て、『リトル・マーメイド』(19891991)のアリエル、『美女と野獣』(19911992)のベル、『アラジン』((19921993)のジャスミン(英語読みでは「ジャズミン」と発音します)、『ポカホンタス』(1995)のポカホンタス、『ムーラン』(1998)のムーランが登場します。そして70年代、80年代のフェミニズムと文化多様性を反映して、プリンセスもヨーロッパ系からアラブ人、中国人、アメリカ先住民と民族の広がりを見せ、王子の到来と幸せな結婚をただ待っているプリンセスから、自らの意見を持ち、行動する姫、自立して戦う姫へと変化していきます。ここまでで8人のプリンセスが勢揃いし、ディズニーストアなどではさまざまなプリンセスグッズなどが売られました。

 

2009年のオバマ大統領就任を契機にアフリカ系のプリンセスとして登場するのが『プリンセスと魔法のキス』(20092010)のティアナです。ニューオーリンズのフレンチ・クオターに住む彼女は自分のレストランを持つことを夢見ている普通の女の子です。そして次作『塔の上のラプンツェル』(20102011)では宮殿から赤ん坊のラプンツェル姫を誘拐して自分の娘として育てた魔女(母)の、美しく成長していく娘に対する嫉妬が描かれていて、いままでのハッピーエンドとは違った趣です。『メリダとおそろしの森』(2012)のメリダは弓の名手であるスコットランドのプリンセスで、王子と結婚することが人生の目標ではありません。そしてようやく登場するのが『アナと雪の女王』(20132014)のアナとエルサ姉妹。この映画では、二人は伴侶を見つけるというより姉妹の絆が描かれます。『モアナと伝説の森』(2017)のモアナは、父の後を継いで島民を率いるリーダーとなることが期待されています。

 

以上挙げたディズニープリンセスのうち、シンデレラ、ベル、ティアナは王家の生まれではないのでプリンセスではありませんし、プリンセスたちが結婚を成就させる相手も王家出身ばかりではなく一般人から盗賊までさまざまです。王子であっても裏切り者もいますから注意しなくてはなりません。

 

さて、“A Whole New World”で有名なアラジンですが、アニメ作品では王宮ではなく外の世界に踏み出すプリンセスが描かれます。

 

英語 日本語訳
I can show you the world      君に世界を見せてあげよう
Shining, shimmering splendid    キラキラ輝く素晴らしい世界を
Tell me, princess, now when did   教えてくれ、プリンセス
You last let your heart decide!   君が最後に自分の心に従ったのはいつ?
I can open your eyes        君を目覚めさせてあげる
Take you wonder by wonder      驚かせてあげる
Over sideways and under       縦横無尽に、上に下に
On a magic carpet ride       魔法の絨毯に乗って
A whole new world          完全に新しい世界
A new fantastic point of view    新しい夢のような世界
No one to tell us no        誰も僕たちにだめとは言わない
Or where to go           あっちに行けとも言わない
Or say we’re only dreaming     夢を見ているだけとも言わない
   
Here comes a wave meant to wash me away    私を押し流す波がやってくる
A tide that is taking me under         波が私を引きずり込もうとする
Swallowed in sand, left with nothing to say  何も言えないまま、砂に飲み込まれ
My voice drowned out in the thunder      私の声は雷鳴にかき消される
   
But I won’t cry                私は絶対に泣かない
And I won’t start to crumble         くじけたりもしない
Whenever they try               彼らがどんなに試みようとも
To shut me or cut me down           私を黙らせ、追いやろうとしても
   
I won’t be silenced              私は絶対に黙らない
You can’t keep me quiet            私を黙らせることはできない
Won’t tremble when you try it         彼らが私を黙らせようとも、私は絶対に恐れない
All I know is I won’t go speechless      私は絶対に黙ってなんかいない
(中略)  
Written in stone                石に刻まれた
Every rule, every word             あらゆる法律と規則
Centuries old and unbending          昔から何世紀も破られなかった
“Stay in your place”             「わきまえろ、おまえの場所から出るな」
“Better seen and not heard”         「女は観賞用だ、意見など聞かない」
But now that story is ending          でも今やそんなシナリオは終わりよ

 

実写版のジャスミンはドレスの露出もアニメより少なく知的であり、「結婚相手は父親の決めた男性ではなく自分で決める」と言明するのはアニメと変わりませんが、それ以上に彼女は「私は王妃になるのではなく、国民のために国を統治する国王(サルタン)になる」と決意を口にします。彼女を支えるのは侍女のダリアですが、この役はアニメには存在しませんでした。二人は階級こそ違いますが、ダリアはジャスミンの夢を実現させるのに大いに助けになるのです。父親と彼を支持する側近のジャファーに代表される父権的アラブ社会がジャスミンの前に立ちはだかりますが、そこに登場するのがナイーブなアラジン。こそ泥をして生計を立てているがアラジンは魔法のランプの手を借りて隣国のプリンスに変身しますが、無知な彼が次第に自信をつけていく成長物語もこの実写版の脇筋の一つです。彼は最初はジーニーの魔法を借りないと行動できませんが、ジャスミンこそが自分の理想とする女性だと気づくと同時に、ジーニーを魔法の力から解放しようとします。

 

以上のようにこの実写版はジェンダー思想を全面に押し出し、いままでのディスニーアニメにはなかった、女性が父権制社会の法律に挑戦し、王である父を説得してリーダーシップをとるという意味で新しい作品です。またジャスミンとダリアの関係はアナとエルサのシスターフッド(女性同士の連帯)とつながるところがあります。さらに文化多様性という観点からいうと、有名俳優はジーニーを演じたウィル・スミスだけ、彼はアフリカ系です。ジャスミン役のナオミ・スコットはインド系イギリス人、アラジン役のメナ・マスードはエジプト生まれのカナダ人、ダリア役のナシム・ベドラドはイラン生まれのアメリカ人というように多様ですが、ジャスミンに求婚する隣国の王子は一見したところアラブ風の豪華な衣装を身につけた白人男性であり、人種的に一ひねりがあります。

 

日本では好ましい批評が多く見られ、興行的にも成功しているようですが、NYTimes をはじめとする海外の批評はおしなべてあまりよくありません。商業主義に走りすぎてCGを駆使したために台無しになったとか、ジーニーの主人公たちへの関わり方が不自然で(けっこう策略家で人間的、悪役のジャファーがジーニーではなく宇宙最強の魔神に変身してしまうなどの度が過ぎている、さらに個人的にはよく出来ていると感じた虎や猿やオウムが全くリアリスティックではないという批評など、好意的には捉らえられていませんでした。#Me Tooなどの運動が沸き起こっている現代を反映しているという点で、ジャスミンの歌と言葉は説得力があります。