OTSUMA TAMA Junior and Senior High School

学校案内

【校長室より】RBGールース・ベイダー・ギンズバーグ

更新日時:2019年5月8日

【校長室より】RBGールース・ベイダー・ギンズバーグ

RBG

JFK(John Fitzgerald Kennedy)FDR (Franklin Delano Roosevelt)のように三つのイニシャルだけで知られているRBG。今年86歳になるアメリカ合衆国最高裁判事(終身)の9名の一人であるルース・ベイダー・ギンズバーグ(Ruth Bader Ginsburg)の2本の映画が現在上映中です。1本は弁護士時代から性差別を訴えてアメリカの法律を変えてきた彼女の偉業を描いたドキュメンタリー映画『RBG 最強の85才』(原題:RBG)。監督はジュリー・コーエンとベッツイ・ウェスト。この作品は第91回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞と歌曲賞の2部門にノミネートされています。もう1本は彼女のハーヴァード・ロースクール(法科大学院)入学から結婚生活、そして歴史的裁判に勝ち抜くまでを描いた『ビリーブ:未来への大逆転』(原題:On the Basis of Sex)、監督はミミ・レダーです。

 

1933年ニューヨークのブルックリンに生まれたルース・ベイダー・ギンズバーグはコーネル大学を卒業、在学中に将来の夫となるマーティン・ギンズバーグと出会い結婚。彼女はハーヴァード・ロースクールへ進学しますが、その後ニューヨークのコロンビア・ロースクールに転学し、卒業後はラトガーズ大学とコロンビア大学ロースクールで教鞭をとります。彼女は弁護士になってからはジェンダー平等や女性の権利に関する裁判で手腕を発揮し、1980年にはカーター大統領により控訴裁判所判事に指名され、1993年にはクリントン大統領により連邦最高裁判事に指名されます。彼女はアメリカ史上二人目の女性裁判官になり現在もなお現役で活躍しています。

 

RBG』ではフェミニストのグロリア・スタイネムやジャーナリストのニナ・トテンバーグ本人も登場。祖母と同じくハーヴァードに入学した孫娘はインタビューに応じ、1956年にギンズバーグが入学した時の総学生数560人のうち女子学生はたった9名で女子トイレすらなかったが、現在のロースクールの学生の男女比は5050だと語っています。

 

『ビリーブ』はギンズバーグがロースクールに入学する場面から始まります。入学式後に開かれた女子学生の歓迎食事会の席で、彼女たちは学部長から「男子学生に割り当てられるべき席に女子学生いること(occupying a place that could’ve gone to a man)についてどう思うか」と質問されて、女子学生がロースクールに歓迎されていないことに失望します。

 

また、二つの大学のロースクールを卒業したギンズバーグが弁護士として働くべくいくつもの法律事務所を訪れる場面が描かれますが、1959年当時、首席で卒業したにも関わらず女性、それも子持ちのユダヤ系の女性を雇ってくれる法律事務所は一つもありませんでした。次の5つの項目は当時ギンズバーグが面接を受けたものの職を得ることが出来なかった理由です。

 

・弁護士ではなく秘書の求人と間違えられた。

・女性は法曹界で働くには感情的すぎる。

・母親は(仕事などせずに)子どものためにクッキーを焼いていればよい。

・昨年女性を雇ったので女性二人は必要ない。

・(女性を職員として採用すると)同僚の男性職員の妻たちが嫉妬する。

 

『ビリーブ』では彼女は弁護士になるのを諦めて大学で教え始めますが、そこでも性差別の実体に愕然とします。アメリカでフェミニズムが始まった70年代でさえ、女性は夫の名前でしかクレジットカードが作れず、残業も禁止されていたのです。映画では母親の介護をする未婚男性が、女性が介護するときには認められる税控除が与えられないという、男性側の性差別撤廃裁判に勝訴する過程が描かれています。

 

「法は天候に左右されないが、時代の空気には左右される」(A court ought not be offered by the weather of the day, but will be by the climate of the era.)

 

『ビリーブ』ではこのフレーズがキーワードになってしばしば繰り返されますが、この一行には彼女が夫や子供たちの支えのもとに、最高裁判事として性差別に毅然と立ち向かった姿勢が表されています。ところでこの『ビリーブ』という邦題はどこからきたのでしょうか。原題はOn the Basis of Sex、「性に基づいて」です。確かにそのまま訳したのでは、映画に描かれている夫婦関係や家族のことは伝わらないかもしれませんが、日本公開にあたり、夫婦のみならず、彼女の裁判のサポートをしてくれたA.C.L.U(米国自由人権協会)との信頼関係を表して『ビリーブ』としたと思われます。

 

「社会にはあからさまな性差別が横行しています」という上野千鶴子氏の東京大学入学式の式辞を引用するまでもなく、日本では先進7か国の中でも男女平等は最下位、政界、財界、法曹界においても女性が活躍しているとは言えず、昨年は大学医学部入試で女子学生と浪人生が差別されていることが発覚しました。1970年代にはフェミニズム運動が起き、女性の権利が確立していると思われるアメリカでさえ、男性によるセクハラに対して#Me Tooのような運動が起こり、女性たちがこぞって男女平等を訴えて団結したのはつい最近のことなのです。このようなときに、最高齢の女性最高裁判事として、伝記やトレーニング本が出版され、マグカップやさまざまな関連グッズが売られて国民的アイコンとして人気者となっているギンズバーグの映画が、二本も公開されたのは画期的といえるでしょう。