大妻多摩中学高等学校

第26段

大妻多摩中高英語科田辺によるレビュー欄③です。

 「貧困の終焉」 ジェフリー・サックス著 (早川書房)

 ハーヴァード大学の経済学教授からコロンビア大学の地球研究所所長になったマクロ経済学者である著者が貧困撲滅に費やした20年ほどの業績と、今後の地球規模での貧困撲滅への提言及びプログラムを記した書。

 貧困問題に真摯に取り組んできた著者の姿勢は、極度に悲惨な発展途上国の貧困の現状を何とか改善しようとする熱意と楽観主義に満ちていて、説得力があります。これまでの実績から貧困を解決できるという強い意志が読み取れ、不可能な事を可能にしてきた自負から、先進国からの援助が発展途上国のそれぞれの実情に即したインフラ整備に適切に費やされるとすると、経済状況が改善されることが力説されています。

 著者の唱える臨床経済学という理念は、各国の実情を医者が臨床を行うように分析し、それぞれの社会的・文化的・経済的・政治的状況を包括的に鑑みて、適切な処方箋を施すというものです。単に自由主義的市場主義を達成させるために負債を減らし、公共部門の自由化を促し、外国からの資本や投資を呼び込みやすい体制を用意することを強要するのではなく、公共部門が人的資材を保護し育成する側面(教育・医療)や、インフラ整備(電力・輸送・飲料水等)が如何に発展途上国では経済発展のためには必要かということを繰り返し伝え、それらへの投資により恒常的に経済発展がその後可能になるという意見は傾聴に値します。

 毎年多くの人々が感染症や天候不順により命をなくしているという報道を聞いても、それらの情報が発展途上国の経済状況とどれほど密接に関連しているのかを私達が果たしてどれほど直接的に発想出来るのか、ということを考えると、この本は先進国に住む私達を啓蒙する良書と言えます。

 マクロ経済学の視点から書かれているので議論の内容が少し大きく、実際にそれぞれの地域・国でどのように具体的な処方箋が必要かという議論はあまりありません。大雑把に世界の貧困の状況と、それを解決するための一般的な処方箋を知りたい人にはお奨め。

英語科 田辺