大妻多摩中学高等学校

第54段

 国語科の小野による本の紹介コーナーです。第5回は、若林幹夫著『社会学入門一歩前』(NTT出版)です。

 高1の現代文の授業では、2学期に入ってまず、渡辺裕氏の「モーツァルトを育むのは誰?」という文章を読みましたが、二つ目の教材が、この若林幹夫(わかばやし・みきお)氏の『社会学入門一歩前』です。若林氏は現在、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。都市についての論考を数多く発表している研究者です。

 社会学というのは、中高生にはあまり馴染みがない学問かもしれません。内容も、経済学や法律学などとは違い多少漠然としたところがあって、どこからどこまでが社会学の範囲なのか分かりにくい(実際、私が持っている他の社会学入門書には、「盆栽の社会学」などという題の章があったりします)。その、少々分かりにくい社会学の、物の見方や考え方を分かりやすく解説してくれているのが、この『社会学入門一歩前』です。「入門書の一歩前」ということで、専門的な用語や人名の提示は最低限にとどめて(さすがにマックス・ヴェーバーぐらいは登場しますが)ありますが、入門書として高い水準でしっかりした議論を展開しています。最後まで読めば、確かな見方や考え方が獲得できるでしょうし、おそらく、大学などで社会学の基礎的な勉強をした後でもう一回読むと、最初に読んだ時には分からなかったいろいろなことが分かってくる、そんな本だと思います。

 私が特に面白く読んだのは、「第九章 科学から魔術へ?」と「第一〇章 スター、カリスマ、独裁者」という二つの章です。
第九章には、「科学や技術によって何でも分かる、何でも解決できる、という考えが支配的になると、科学が本来受け入れなければならない『分からなさ』に人は耐えられなくなり、『何でも解決できる』という魔術や神話のような力を求めるようになる」という議論があります。何か大き犯罪が起きた時に、世の中がその事件の動機や理由をやたらと求めたがる、つまり「分かり」たがって曖昧さを許さない、という最近の風潮も、こういう流れの中にあるのだろうか、と考えさせられます。
第一〇章では、スターやアイドルを好きになることと占いやオカルトを信じることとの、共通した「心のあり方」が論じられていて、面白い。スターやアイドルが生まれる背景についての議論も、入門者にはなるほどと思えて興味深いことでしょう。

 高1の授業で扱うのは、「第二章 私の中の社会」です。この章も、「社会的なつながり」といものの意外な広がりが論じられていて、興味深く読めます。

 将来社会学あるいは社会科学系の勉強をしたいという人だけではなく、人文科学系の学部学科に進みたいという人にもお薦めの本です。

国語科 小野