大妻多摩中学高等学校

第61段

 吉村昭という作家を知っているだろうか。おそらくあまり知られていない。歴史を題材とした小説が中心だ。歴史小説というとどうしても司馬遼太郎人気が高く、比較すると吉村は地味である。だが、司馬の少し妄想気味なくだりとは違い、周到な取材に裏付けられた歴史描写にはすさまじいものがある。

 また扱う対象も地味だ。小村寿太郎、高野長英、前野良沢などなど……。読んでいて抑揚するような感動はない。だが、地道に読んでいくうちにじわじわと感動してくる渋さがある。

 読書の秋である。紹介されなければなかなか手に取ることのない吉村昭の小説を、ぜひ読んでみてほしい。ちなみに、吉村昭著作の「桜田門外ノ変」が今週の土曜日から映画館で上映される。主役は井伊直弼ではない。暗殺者側の一介の武士が主人公だ。主演は大沢たかお。中高生にも人気があるだろう。私も必ず映画館に行く。

                                                                  井の中の高野聖