大妻多摩中学高等学校

第65段

「最底辺の10億人」ポール・コリアー著  中谷 和男訳 (日経BP社)

 大妻多摩中高英語科田辺によるブックレビュー⑦です。

 世界の貧困問題に関するものは以前ジェフリー・サックスの本とウィリアム・イースタリーの本を紹介しましたが、これはそれに続くもので、著者自身が認めるように上記2人の主張の中間にあたる主張をしています。

 この著者はオックスフォード大学のアフリカの専門家で、且つ世界銀行でもアフリカの貧困問題解決のために働いている英国人です。原書のタイトルは、”The Bottom Billion:Why the poorest countries are failing and what can be done about it”、訳すと「底辺の10億人:最貧国が失敗している理由とそれに関して行うことが可能なこと」になります。

 タイトルにもあるように、世界の最底辺の10億人に焦点を当て、それらの人々を貧困から救済するためにどのような措置を講じることが可能かという具体的な方法を、経済学や政治学を交えて説いています。主にその10億人が暮らす国はアフリカ、特にサハラ以南にあり、議論の中心はアフリカの現状を踏まえたものになります。

 例えば、アフリカの最貧国を私達は簡単にいくつ挙げられるでしょう。スーダン、コンゴ、コートジボワール、チャド、中央アフリカ共和国、アンゴラ、ルワンダ、ウガンダ、ジンバブエ等々の国名は聞いたことはあるかもしれませんが、アフリカのどこにあり、またどのような国であるのか、今どのような現状にあるのかということを私達はほとんど知らないかもしれません。こういった国々では紛争状態が長期化していたり、独裁者が私腹を肥やしたり、そもそも国としての体制が成り立っていなかったりということも私達は知らない可能性も高いのですが、またこれらの国々の中には石油やダイヤモンド等の資源が豊かな国もあり、それらの貿易を通じて国が豊かであるかのような幻想を私達は抱くかもしれません。しかし実はその資源の豊かさが逆説的に経済の競争力を弱体化させるという事実もあります。また紛争ダイヤモンド等、資源自体が紛争を助長するという事実も私達は知らないかもしれません。

 このような現状を踏まえた上で、これまで紹介したサックスは援助の重要性を説き、蔓延する病気の駆除、内陸国へのアクセスの確立等というインフラ整備による経済発展を推奨し、イースタリーはこういった国々の現状認識が不足している官僚による援助のあり方を批判して、それぞれの国が自立した経済発展を遂げるような個別の対策を推奨しています。

 この著者は、紛争・天然資源・内陸国・ガバナンス(政府の統治能力)という4つの貧困の原因となる「罠」がそれぞれ、または複数絡み合って最貧国の現状を生み出していると指摘し、それらを改善するための方策を具体的に、また数値化されたデータを用いて説明します。援助が当然重要な役割を果たすので、先進国に住む私達はその援助だけが貧困国家を救済する措置だと思いがちですが、著者はさらにその援助の使い道を透明化するように政府を手助けし、国が安定するように軍事介入も辞さず、貿易障壁を先進国側から排除するという大局的な見地に立ち様々な措置を提案します。

 グローバル化を批判する人々は、最貧国を生み出し維持する原因をグローバル化に求めがちですが、最貧国が貧困から抜け出す方法はグローバル化した経済しかないという指摘は示唆的です。確かにグローバル化による人的流出(brain drainも含む)、資産流出から最貧国から優秀な人材や資産が先進国に流れ出している現実もありますが、著者の唱える国際憲章と国際的な協力によってのみ貧困問題の解決策は達成されないように考えられます。

 欧米では圧倒的に評価が高い本です。経済学の議論は少々読みづらい箇所もありますが、著者も認めるように一般的な読者を対象に書かれた本なので、全体としては分かりやすく書かれています。

 貧困問題は21世紀の非常に重要なテーマなので、是非中高生の間に世界の貧困問題を考えてみて下さい。

英語科 田辺