大妻多摩中学高等学校

第115段

 国語科の小野による本の紹介コーナーです。第9回は、本コーナー初のマンガ本、杉田圭『超訳百人一首 うた恋い。』第1巻・第2巻(メディアファクトリー、2010年8月・2011年4月刊)です。

 8月も半ばを過ぎ、生徒の皆さんの中には、宿題に追われている人も多いのではないでしょうか。宿題といえば、今年の夏休みも、中学1年生には『百人一首』の宿題が出ているようです(学校を離れている関係で、範囲がどこなのかなど詳しいことは分かりませんが)。その『百人一首』の理解・学習に有益だろうというマンガが、この『うた恋い。』です。

 内容は、1章につき『百人一首』中の和歌1首をとりあげて、歌が詠まれた経緯や歌人たちの様々な交流を描く、というものです。フィクションの部分もありますが、作者の杉田氏自身しっかり勉強なさっているようだし、和歌文学が専門の渡部泰明・東京大学教授が監修をなさっていて、基本的なところはしっかりと押さえられているので、勉強にもなります。私は今年度、学習院の授業で渡部先生にお世話になっているのですが、実は、このマンガの存在も、渡部先生を囲んでの食事会の席で、初めて知りました。しかし、既に知っていて読んでいるという人は世の中に大勢いるようで、第1巻は、発売10箇月で早くも11刷です。

 私のお薦めは、第1巻に載っている、藤原義孝の話です。ご承知のように、『百人一首』に採られた藤原義孝の歌は

  君がため惜しからざりし命さへ
長くもがなと思ひけるかな

です(『後拾遺和歌集』では、第五句が「思ひぬるかな」になっています)。杉田氏の「超訳」を借りると、「いつ死んでもいいと思っていた 君に会うまでは 君に会えた今 いつまでも 君といられたらとぼくは願っている」となります。

 藤原義孝は、高級貴族の子弟で、たいへんな美貌の持ち主。その上人柄も素晴らしく信仰心も厚い、非の打ち所がないような男性です。歴史物語『大鏡』には、そんな義孝の素晴らしさが詳しく記されています。ところが、「あまりに美しい者は神に愛され召される(早死にする)」という当時の俗信の通り、義孝は天延2(974)年の秋、流行病のために21歳の若さで亡くなってしまいます。しかもそれは、何と、同じ日の朝に兄が同じ流行病で亡くなった後を追うかのような死だったのでした。華やかな存在で皆に愛され、将来を嘱望されていた息子二人を、一日のうちに失った母親(父親は既に亡くなっています)の悲しみというのは、どれほどのものだったのでしょうか。

 このような義孝の人生を知ると、「君がため」の歌は、夭折(若くして死ぬこと)を予感させるような響きを持った歌に感じられてきて、哀切さがつのります。マンガでは、この歌は「源保光の娘」に贈った歌ということになっています。それが事実なのかどうかは分かりませんが、二人が初めて逢うまでが上手にまとめられています。

 他の話も、素材は一級の和歌ばかりですから、当然面白いし、ためになる。ハマっている人が多いというのも頷けます。2冊で、100首のうちの12首をとりあげていますが、今後、残りの88首も描かれるのでしょうか。続きが出版されることを期待します。

 残り少なくなった夏休み。さあ、君も『うた恋い。』を読んで「雅美女(みやびじょ)」になろう! でも、その前に宿題もやろう。

注……「雅美女(みやびじょ)」とは、第1巻の表紙にある説明によれば、「日本の雅(みやび)な歴史、文化、文学を愛する女性のこと」だそうです。作者の杉田氏の造語でしょうか。

国語科 小野