大妻多摩中学高等学校

第130段

「THE RISE & FALL OF COMMUNISM」 Archie Brown著 (Vintage)

 大妻多摩中高英語科田辺によるブックレビュー⑧です。

 日本語訳すると「共産主義衰亡」となる、イギリスの政治学者であるアーチー・ブラウンによる、ペーパーバックで700ページ以上になる本です。日本語訳はされていないので原文で紹介しますが、ペーパーバックでなく実際の本にすると多分1,000ページを超える大書です。

 内容は、共産主義という20世紀に多くの国家を成立させた思想の始まりからソ連崩壊後共産主義国家として存続している幾つかの国家に関する分析まで、時系列に沿って淡々と客観的な叙述と分析が続きます。いかにもアングロサクソン系の学者が書いたという趣の本で、共産主義若しくは社会主義、マルクス、レーニン等の思想内容には大きく踏み込まず、政治史としての共産主義国家の問題点及びその帰結となる共産主義国家の崩壊を、多彩な資料を基に描写しています。

 「プロレタリアート独裁」による万人の平等を目指した思想が革命を経て「共産党独裁」へと移行し、その一党独裁によって形成された国家体制が権威主義(authoritarianism)、または独裁主義(totalitarianism)に変形し、粛正、検閲を伴った恐怖政治へと結果的に至る道筋を丁寧に叙述しています。

 著者の指摘するとおり、万人の平等という思想はマルクスに始まったものではなく、ルネサンス以降の哲学者や詩人、作家等多くの人が唱えた考えで、民主主義はフランス革命の合い言葉にあるように「自由・平等・博愛」の自由に重きを置くのに対し、共産主義・社会主義は平等に重きを置いた思想です。実は民主主義にしても共産主義にしても双方とも人間が考え出した思想で、それによって政治体制を革命によって変革し、その当初は独裁による粛正が生じたという点では共通点があります。問題は共産主義の場合、政治的・経済的に硬直化した体制を産みだし、それによる被害が甚大であったという点にあります。 著者の考えでは、共産主義国家体制が民主主義へと移行するのは体制内の問題を見ると時間の問題であり、政治的・経済的変革が必然的に体制の転覆を導き出したと結論しています。

 21世紀の今、「共産主義」若しくは「社会主義」などというと私達には古くさい時代の遺物のように感じられますが、現代に全く関係がないものかというとそうでもなく、10年ほど前にはジェノバやシアトルで国際サミットが催された際には反グローバル側の人々が暴動を起こしましたが、その際アントニオ・ネグリとマイケル・ハートの共著「帝国」が学生によって掲げられているシーンがありました。この本は21世紀の「共産党宣言」と見なされるようなもので、マルクスの唱えた思想に少なからず影響を受けています。また現在ニューヨークのウォール街で起きている「Occupy Wall Street」(ウォール街を占拠せよ)という運動では、1%の人々が99%の人々を搾取しているという主張がされていますが、自由の国アメリカで平等を求める運動がこれほど拡大しているのは少なからず現在の経済体制に対する批判として平等思想があるという証左でしょう。

 もちろんブラウンが言うように、現在ではマルクスの思想への共感が必ずしも共産主義若しくは共産党への支持へと結びつかない理由はブラウンがこの本の中で何度も強調するようにその国家体制にあります。しかしリーマンショック時にドイツで「資本論」がかなり売れ行きを伸ばしたことや、20世紀末共産主義国家終焉後に多くの西側の著名な哲学者がマルクスやレーニンに関する著作を多く書いたことは、「平等」を巡る思想そのものが終焉した訳ではないということを表しているのではないでしょうか。

 特に、「格差社会」と呼ばれるグローバル資本主義の時代に生きる私たちには、「平等」という思想は多くのことを示唆的に教示しているかもしれません。

英語科 田辺