大妻多摩中学高等学校

第135段

「懐かしいヒメの思い出(中編)」

 私が当時担任をしていたクラスで、高校2年の秋から教室で飼うようになったハムスターのヒメの話しの続きをします。クラスにやってきてから半年余りが過ぎた頃、食欲不振になったようなので病院で診てもらうと、メスではなく実は“♂”であることが判明しました。獣医さんによると、ハムスターは小さい頃は性別がしにくいので、よくあるとのことでした。翌朝のHRは驚きの声と笑いに包まれ、早速名前をどうするかでその日の夕礼は盛り上がりました。当時のクラスは、クラス委員2人が立派だったこともありますが、本当によく話し合いができるクラスでした。ああでもない、こうでもないとずいぶんと話し合いましたが、結局ヒメはヒメで、性別に関わらずそのアイドル性に変わりはないのだから、そのままでいくことになりました。「オスなのにヒメ?」との感じも少しはありましたが、彼女たちが納得したのなら、それでよいと思いました。今なら、ニューハーフがこれだけもてはやされているので、全然違和感はありませんね。

 ヒメは高3の受験期に、重圧につぶされそうになった彼女達を、その小さなかわいい瞳で優しく見守り続け、クラスに笑いと温かいムードを創り出す原動力となってくれました。「5時間目の眠い時、教室の後ろでヒメが滑車をカタカタと回す音に目を覚まされました」とか、「母もヒメのファンで、よく家で話します」とか、学級日誌はいうまでもなく保護者面談でもヒメはよく話題に上がりました。受験前の不安な気持ちの中で、家族の話題作りやクラスのムード作りに貢献してくれたのです。確か4F体育館で行われた高校3年生1学期最後の学年集会だったと思いますが、ついにはそのケージごと集会にも持ち込まれました。「クラスの一員だから」とのことでしたが、学年主任のN先生の1学期を総括する大事な話の最中に、我がクラスの列の最後尾にいたヒメが突然ケージの中で滑車を勢いよく回し始めたのでした。シリアスなムードだったのに、滑車の回るカタカタという音が体育館に響き渡り、その場が笑いに一変してしまいました。N先生は少し困った顔をされましたが、いつもの温かい笑顔で話しを終わらせました。教員も生徒も明るく元気な学年でしたので、ヒメにしても、一般にはストレスがたまって長生きしにくいと言われる学校ですが、この学年に入って幸せだったのではないかと思います。

 3学期を迎え生徒達が受験のため登校しなくなると、ヒメは英語科の準備室や職員室で平日を過ごしました。自習や合格の報告に来る生徒達が会いに来るので、学校で待機させることにしたのです。普通、1年半から2年の寿命と言われるハムスターなので、2回目の冬を迎えて、彼女達の受験の最中にもしものことがあれば精神的に悪い影響を与えるだろうと、飼い始めた当初から心配していました。準備室で仕事をしながら、ヒメが元気に滑車を回す音を聞く度に安心しましたし、生徒とともに過ごした日々が思い出され、その頃の学級日誌の挿絵を懐かしく見直すことがありました。依然として元気なヒメのパワーに後押しされたのか、大学合格についても生徒達は良い成果を出してくれたのでした。そして3月、いよいよ卒業式の日を迎えることになりました。(さらに来月へ続く)

英語科 伊藤