大妻多摩中学高等学校

第161段

 国語科の小野による本の紹介コーナーです。第10回は、高木和子著『平安文学でわかる恋の法則』(ちくまプリマー新書、2011年10月)です。

 何だかとても軽い感じの題がついていますが、授業でもよく取りあげられるお馴染みの文章を材料にして、古文の世界の様々な「お約束」が分かりやすく説明されています。特に、古文の勉強を本格的にやり始める中学高学年から高校一年くらいまでの生徒には、ためになる本でしょう。

 説明されている古文の世界の「お約束」というのは、昔の人々の生活スタイルや制度(いわゆる「古典常識」と呼ばれるもの)に関する事柄だけではありません。古文の世界では物語のストーリー展開にも決まったパターンがあるのだ、ということも、この本では説明されています。

 例えば、男女の出会いにも、古文の物語には典型的なパターンがあります。「垣間見(かいまみ)」というのがそれで、『伊勢物語』初段、『源氏物語』若紫巻が垣間見を描いたことによって、「垣間見から始まる素敵な恋、という展開が、その後の物語において定番になったに相違ない」(19ページ)というわけです(「垣間見」がどいうものなのかは、自分で調べるなりして下さい)。

 実際、古典作品を読んでいると、男女が知りあう場面に限らず「この話、どこかで読んだことがあるぞ」と感じるのはよくあることです。高木氏も、
有名な一つの場面を知ることで多彩な応用がきくという、いわば数学の公式や科学の法則のような側面が、古典文学の名場面にはあるのです。その意味で、古典とは紛うことなく〈型の文化〉なのです。(26ページ)
と説いています。

 どの学問分野でも、典型的なパターンやモデルケースを知るというのは大切なことですが、古文の世界の基礎的な事柄に関しては、この本に要領よく書かれています。もっとも、この本を読んで「恋の法則」が分かったら、恋愛上手になって現実生活で幸せになれるのか、といえば、それは保証の限りではありません、念のため。

 この本を読んで、平安時代の女性の生活に関心を抱き、もっともっと詳しく知りたくなった人には、池田亀鑑著『平安朝の生活と文学』(ちくま学芸文庫、2012年1月)を紹介しておきます。昔は角川文庫から出ていましたがもう長いこと絶版になっていて、このたび、ちくま学芸文庫版として復活した本です。

 池田亀鑑(いけだ・きかん。1896~1956)といえば、その名前を知らない国語教師は一人としていない(はずの)著名な研究者ですが、その大先生が「文学作品をはじめ、さまざまな古記録を博捜し、当時の行事や日常を復元」した、「平安時代の女性生活百科の名著」です(カギ括弧内はカバー裏にある紹介文からの引用)。ただし、高校までの勉強の範囲を超えた内容がぎっしり詰まっている本ですから、そのつもりで挑戦して下さい。

国語科 小野