大妻多摩中学高等学校

【校長室より】観てから読むか、読んでから観るか、『星の王子さま』「かんじんなことは、目に見えないんだよ」

「かんじんなことは、目に見えないんだよ」

 

キャンパスで見つけた秋咲きのバラ
中高グランドに咲くピンクのバラ
「だれかが、なん百万もの星のどれかに咲いている、
たった一輪の花がすきだったら、その人は、
そのたくさんの星をながめるだけで、
しあわせになれるんだ」

フランスの作家サン=テグジュペリ作の『星の王子さま』のアニメ映画版が11月に封切られるということで、テレビのCMなどでもしばしばこの言葉を目にするようになりました。『リトルプリンス 星の王子さまと私』と邦題のついたこの映画は原作の後日談、主人公は現代の9歳の少女、「勉強ばかりで友達のいない少女の日常は、引越先の隣に住む、元飛行士のおじいさんに星の王子さまの話を聞くことから変わり始めます。」と、映画のあらすじに書いてあります。

原作の著者サン=テグジュペリは1900年にフランスのリヨン生まれ、郵便物を輸送するパイロットでしたが、第二次大戦中にアメリカに亡命、そこで書かれたのが『星の王子さま』です。本は1943年に出版されますが、彼自身は軍用機の操縦士として志願し、1944年にフランス内陸部を偵察飛行中に行方不明になったといわれています。

アメリカで英語とフランス語で出版された『星の王子さま』の原題はThe Little Prince(Le Petit Prince)、直訳すると「小さな王子」ですが、日本で最初に訳した内藤濯(ないとう・あろう)が「星の王子さま」というタイトルを付けたことから、このタイトルが日本では一般的に知られるようになりました。金髪で赤い裏地のついた緑の裾の長いコートを着て剣をもった王子のイラストはまさに「星の王子さま」そのもの、ご丁寧にコートの両肩には星の形の肩章が付いています。

本や映画の日本語タイトルはとても重要です。The Little Princeと同じように“The Little”がついていてもThe Little Princessはフランシス・ホジソン・バーネット作の『小公女』、The Little Womenはルイザ・メイ・オルコット作の『若草物語』というように、最初に翻訳した人によって独自の日本語タイトルが付けられています。わたしたちはこのタイトルを見たり聞いたりすることで、『小公女』なら「ああ、孤児院に預けられた少女セーラの物語ね」とか、『若草物語』なら「4人姉妹の話だ」とわかります。

さて、この『星の王子さま』は一見するとかわいいイラストがついた子ども向けのファンタジーに見えます。イラストにしても、あまり上手とは言えないような象を飲み込んだウワバミとか黄色い蛇、王子に大切なことを教えてくれるやせた狐がいるかと思えば、怖そうな三本のバオバブの木、気位の高い一輪のバラがあったり、酒飲みとか点灯夫、天文学者など、あまり子ども向けの題材とも思われません。やさしそうに見えて、実は奥が深い、これが『星の王子さま』なのです。子どもの心を失ってしまった大人には理解が難しい本かも知れません。

前書きにはテグジュペリの親友であるレオン・ウェルトに対する献辞が付いています。そこには「子どもだったころのレオン・ウェルトに」と書かれています。つまり語り手「わたし」によれば、レオンは「子どもの本でも、なんでも、わかる人」であり、更に言えば「いまフランスに住んでいて、ひもじい思いや、寒い思いをしている人」なのです。実際にレオンは戦争中にナチス迫害を受けたユダヤ人であり、「わたし」はナチス占領下のフランスで苦しんでいる同胞たちの心を慰めるために、愛や友情をテーマにした本を書いたとも考えられます。

作品は27章から成り、ストーリーは、テグジュペリを思わせる飛行家の「ぼく」(訳では前書きの「わたし」と区別して「ぼく」が使われています)の6歳のときの回想から始まります。この本の大半である2章から26章まではぼくと王子さまの話であり、サハラ砂漠に不時着して生きるか死ぬかの苦境に陥ったぼくは星の王子さまと出会い、王子さまの語るさまざまな星の話に耳を傾けることになります。そして最後の27章では、王子さまとの6年前の出会いを振り返るぼくがいます。

構成も、登場人物も、王子の話す言葉ひとつとってみても一つ一つ意味がありそうです。蛇や狐やバオバブの木は何を表しているのでしょうか。気位が高くて、美しさを鼻にかけるバラの花に振りされる王子さまは、彼女の愛情に応えるにはあまりに幼すぎるため、自分の星を去って放浪の旅に出ます。彼が出会う王様や酒飲み、実業家、天文学者は誰なのでしょう。『星の王子さま』の謎を解こうとすること自体意味のないことかも知れません。

『星の王子さま』を読んだことのある人は新たな気持ちで、読んだことのない人は予備知識なくこの本を読んでみて下さい。「星の王子さま」と年齢も近い中高生のみなさんなら、きっと純粋な気持ちでこの本の本質が理解出来るはずです。

内藤濯の他、池澤夏樹、河野万里子が訳しています。まず日本語訳で読んでから、英語版を読み、どのように訳されているか比べてみるのもよいでしょう。易しい英語で書かれていますのでぜひ挑戦してみて下さい。


※ 本文からの引用は、岩波少年文庫、内藤濯 訳より