大妻多摩中学高等学校

【校長室より】ティム・バートン監督の『ダンボ』(2019)

2296

「ダンボ」というと、並外れた大きな耳を広げて空を飛ぶかわいい子象の姿を思い浮かべますが、もともとは1941年にアメリカで、54年に日本で公開されたディズニー映画の主人公です。そもそもサーカスというと猛獣や珍獣の芸や、曲馬団や空中ブランコ乗りのショーのほかに、ふつうと異なった人間や動物などの見世物小屋としての要素を持っています。大きな耳を持って空を自由に飛び回る象というのはサーカスのキャラクターとしてはぴったりですが、人間の子どもにからかわれたダンボをかばった母象ジャンボが興奮して暴れたため、ダンボは母親と引き離されてしまいます。アニメでは、ダンボが自分に飛ぶ能力があることに気づくのは、お酒の入った水を飲んでしまい、酔っ払ってピンクの象の幻想を見てからです。飛ぶ象ダンボはたちまちサーカスの人気者になり、母親とも再会を果たすというストーリーです。

今回の実写版『ダンボ』は時代を第一次世界大戦後の1919年に設定。ダンボの飼い主になる乗馬ショーのスターだったホルトは戦争で片腕を失った帰還兵であり、妻は彼の不在中に二人の子どもミリーとジョーを残して病死したため、父子三人でサーカス小屋で生活することになります。姉のミリーは見世物小屋としてのサーカスよりもキュリー夫人のような科学者になるのが夢です。彼らの家であるメディチ・ブラザーズ・サーカスの興業主マックス・メディチは「兄弟会社」を名乗りながら共同経営者はおらず、マックス一人で弱小サーカスを率いています。そこに生まれたのが大耳のダンボ。普通と異なる姿のためにピエロとして笑いものになりますが、彼の空飛ぶ能力を見いだしたミリーらの訓練によりスターになります。折しもダンボの人気を聞きつけた大興業主V.A.ヴァンデヴァーによりサーカス小屋ごと買い取られますが、彼の悪巧みは暴かれ、巨大遊園地であるドリームランドは火に包まれまれます。ダンボは他の団員ととも脱出に成功、母親と再会してアフリカの自然の中で仲間たちと幸せに暮らします。

ヴァンデヴァーのドリームランドは1904年にニューヨークに作られたコニーアイランドや1955年にロサンゼルスに作られたディズニーランドをモデルにデザインされていることは明らかですが、欠陥だらけだけれど家族的なメディチ・サーカスと比べて、大規模な機械仕掛けの装置や電飾まばゆいドリームランドはどこか無機質で温かみがありません。この映画では登場人物は誰一人として完全ではなく孤独を抱えていますが、ホルトたちは力を合わせて敵と対峙し難事を乗り越えます。ホルトはフランス人空中ブランコ乗りのコレットとともに乗馬ショーを復活させ、見世物小屋としてのサーカスに反発を感じていたミリーは、当時流行し始めた映画技術者として父の支援するのです。

主役のダンボですが、実写版ではディズニーアニメのように母像ジャンボとともにサーカスの人気者になるのではなく、アフリカの自然で仲間と一緒に暮らすというSDGsの現代にふさわしいエンディングになっています。ダンボやジャンボ、そしてほかの動物たちはCGの発達により実在する動物のようですし、特にダンボの愛らしく豊かな表情は見る人すべてを虜にしてしまいます。ジャンボの檻を見つけたダンボが母親の鼻に自分の鼻をからませる感動的なシーンは実写版でも再現されています。実写版は羽根の力を借りなくても自分の力で空を飛べることがわかったダンボの成長物語でもあり、ホルトと子どもたちの自立の物語でもあるのです。『シザーハンズ』(1990)、『チャーリーとチョコレート工場』(2005)、『アリス・イン・ワンダーランド』(2010)を生み出したティム・バートンならではの異形の者、あるいはアウトサイダー(よそ者)に対する愛情が感じられる作品です。