大妻多摩中学高等学校

【校長室より】ブレない子育て、母の手記

『ブレない子育て―発達障害の子、「栗原類」を伸ばした母の手記』-納得の育児書

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2年前、当時ネガティブタレントとしてテレビの人気者になっていたモデルの栗原類くんの自伝『発達障害の僕が輝ける場所を見つけられた理由』をご紹介しました。この本は、類くんが幼少期から感覚過敏、注意散漫で忘れ物が多く、二つの行動を同時にできなかったり記憶力が弱かったことからADD(「注意欠陥障害」)と診断され、のちに母子ともにADDと診断された後のお母様と主治医高橋先生との共著でもあります。

最近彼の姿をテレビでは見かけなくなったと思ったら、現在は劇団に入って俳優として活躍しているのだそうです。端正な容姿ながら無表情で、受け答えもネガティブに見えるところが2年前にもてはやされたのですが、それもすべてADDのせいだったと著書で認めています。お母様の仕事の都合でニューヨークで暮らし、英語が話せる類くんは海外映画俳優とのインタビュアにも起用され、その独特なファッションと相まって人気が出たときの著書の出版でした。

そしてこのたび、類さん(2年が経過したので「さん」と呼びましょう)を育てたお母様、栗原泉さんの子育て記『ブレない子育て』が出版されました。泉さんは音楽ジャーナリストとして通訳をしながら類さんを育ててきました。泉さんご本人は必死の思いで英語を勉強して渡米したと言っていますが、シングルマザーとして類さんをロンドンで出産後、子どものためにフリーで通訳を始めたということです。泉さんは自らの生い立ちを振り返り、両親が反面教師になって、今度は類さんを育てることになった時「子育てにとって本当に大切なこと」に気づいたといいます。8歳で類さんがADDと診断されたとき、泉さんも同じくADDと診断されますが、実績を積み上げて通訳の仕事を広げ、社会性を学ぶことによって自己肯定感をどう身につければよいかを理解したということです。

泉さんの「ブレない子育て」の実践8つのマイルールとは次のようなものです。

  • マイルール1: 周囲の雑音に振り回されない知識を持つ。子育て中の親はとかく不安をあおられやすいので、情報に振り回されることなく自分の決めたやり方で行動する。誰しもが定形外であるから同質化することはない。信頼できる専門家の相談相手を持つ。
  • マイルール2: 「我が子に今何が必要か」をじっくり観察する。ベストな答えは子ども自身にあるので、「向き」「不向き」でなく「何なら頑張れそうか」を見つける。子どもの才能を見くびることなく、親にとって喜ばしくない好奇心でも見過ごさない。
  • マイルール3: ADDの子どもは疲れやすいので、取捨選択をして頑張らせることの優先順位を決める。勉強より子どもにとって大切なキャリアを優先する。
  • マイルール4:本当の家庭教育は親が自分の得意なことを教えるのが一番。子どもと一緒に学んで感動を共有し、そのことが親子の信頼や尊敬を育てる。親が苦労しながら努力している姿を見せると同時に親も自分の時間を大切にする。
  • マイルール5: 人生の前向きな姿勢、社会常識やマナーを具体的に根気強く繰り返し教える。周囲の感謝や自発行動の大切さを教える。丁寧な言葉遣いをし、子どもを一人の人間として尊重する。子どもには否定形を使わず、具体的な提案をする。
  • マイルール6: 子どもの将来を見据えた一貫性のある教育ヴィジョンをもつ。バイリンガルに育っても日本で生活するなら日本社会の理解は必要である。
  • マイルール7: 親のエゴをはずして、子どもの意思を尊重する。
  • マイルール8: 言行一致。子どもに言ったことは必ず守る。守れない約束はしない。言ったことはその通りにすることを徹底する。

これらのルールから言えることは、子どもは他人と比べるのではなく、親は子どもの教育に一貫性をもって、その子の個性を尊重して育てるということ。泉さんは得意だった英語を使って音楽業界で仕事をするために、高校卒業後に暮らしたことのあるニューヨークに類さんを連れて引っ越しますが、そこで類さんがADDと診断されるのです。泉さんは類さんと20か国も海外旅行をしながら彼に様々な経験をさせ、英語の通じないフランス語圏に行って親子ともにコミュニケーションの苦労を学んだといいます。こうして子どもは親と感動を共有することによって互いの信頼関係が築かれるのです。子どもがADD だったからできたのか、ADDでなかったらそこまで徹底的にできるかどうか。泉さんの子育てはなかなかふつうの親には真似ができないようにみえますが、泉さんの実体験から生み出されたマイルールは誰でも通用します。常識やマナーを根気強く教えることも、類さんに限らず子どもが社会で独り立ちするためにはとても重要なことですから。

日本では保護者会の役員はなり手がないとよく言われますが、アメリカではやりたい人ばかりで係が争奪戦になるというエピソードは面白いと思いました。これはアメリカはリーダーシップを育てる、自発的に役割を引き受けることをよしとする社会だからであって、このような社会で類さんを育ててきた泉さんは、しばらくたってから周囲の人たちの愛に気づいたといいます。コミュニティの結束が固いアメリカならのことでしょう。

「医学博士の育児書を読む」、「一見、自分に関係のない知識も得る」、「海外の子育ての本も読み、内容を比較してみる」、これが泉さんの子育ての基礎にあります。そしてなにより泉さんは、「信頼できる第三者に助言を求める」ことが大切といいます。泉さんは信頼できる小児科医、そして自身のADDで良き相談相手になった精神科医の高橋先生が類さんとの生活に大いに影響を与えたと書いています。どんなに信念をもって子育てをしていても、やはり専門家は頼りになるものです。今回改めて類さん、泉さん母子の著書を読み比べてみて、互いが強い信頼関係で結ばれているのを感じました。ADDを障害ではなくその子どもの個性(アイデンティティ)としてとらえるという意味で、子の立場から生徒の皆さんに、また母親の立場から保護者の方たちに、さらに先生方にも読んでいただきたい本です。