大妻多摩中学高等学校

【校長室より】「歌は歌われるもの、芝居は演じられるもの」

「歌は歌われるもの、芝居は演じられるもの」

 

ボブディラン

 

2016年度のノーベル文学賞を受賞したにもかかわらず、12月10日の受賞式でもスピーチ原稿を発表しただけで式には参加しなかったアメリカの歌手ボブディランが、6月4日ようやく講演を行いました。といっても映像なし、27分の音声のみの録音でした。実はノーベル賞の創設者であるノーベルの命日にあたる12月10日から6か月以内に、「自らの業績に関する講演」をしなければ、約一億円の賞金が宙に浮いてしまうことになっていたからです。この講演はYouTubeなどで見ることができます。

 

 I got to wondering exactly how my songs related to literature.

 

ディランはまず「ノーベル文学賞」を受賞したことについて、「わたしの歌がどうして文学と関係があるのかを考え続けた」と語り始めました。

彼はまず自分が影響を受けたアメリカ人歌手バディ・ホリーについて言及し、日常の話し言葉を曲にのせて歌うフォークシンガーの歌や、古代のバラードやカントリー・ブルース、そしてワークソングなどの断片などが体の中にしみ込んでいたと語っています。
さらにディランは、小学校の時に読んだ3つの文学作品、メルヴィルの『白鯨』、ラマルクの『西部戦線異状なし』、ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』を解説しながら、これらの作品が自分の作詞に特に大きな影響を与えたと語りました。

 

 If a song moves you, that’s all that’s important. I don’t have to know what a song means. I’ve written all kinds of things into my songs. And I’m not going to worry about it— what all means.

「もし一つの歌があなたを感動させるのなら、そのことだけが重要なのだ。その歌がどういう意味があるかは知る必要はない。わたしはあらゆることを自分の歌に書いてきた。それがどういう意味をもつかは気にしない。」

 

 Our songs are alive in the land of the living. But songs are unlike literature. They’re meant to be sung, not read. The words in Shakespeare’s plays were meant to be acted on the stage. Just as lyrics in songs are meant to be sung, not read on a page. …… I return once again to Homer, who says, “ Sing in me, oh Muse, and through me tell the story.”

「わたしたちの歌はこの世の中で息づいている。しかし歌は文学とは異なる。歌は歌われなければならない。同様に、シェイクスピアの芝居の台詞は舞台の上で演じられるためにある。歌詞は詩集のページ上で読まれるものではなく、歌われなければならないと同じように。......『わたしの中で歌ってくれ、芸術の女神ミューズよ、そしてわたしを通じて物語を語ってくれ』、こう語るホメロスにわたしは再び戻っていく。」

 

昨年、ディランがノーベル文学賞を受賞したというニュースを聞いたとき、私の頭に浮かんだことは、「確かにボブ・ディランは偉大な歌手だけれど、ずいぶん昔の人だし、本を書いているわけではないし、フォークソングって文学なの?」ということでした。当時のメディアの反応もだいたい同じようなものだったと思います。また受賞直後にインタビューに応じないなど、受賞に対するディランのあいまいな態度も世界中の人々の注目の的になりました。これはすべて、彼の「自分の歌は文学とは異なる」という主張(おそらく居心地の悪さ)に基づいたものだったのです。確かにディランは、大部の長編小説を何冊も出版しているいわゆる文豪と呼ばれる作家とは違いますが、さまざまな文学作品や伝承のフォークソングの影響を受け、「歌は人々に歌われてこそ価値があるものだ」と語るこの講演は、彼の業績がノーベル文学賞に値することを証明する説得力のある格調高いものといえるでしょう。