大妻多摩中学高等学校

【校長室より】The September IssueとThe First Monday in May

The September Issue(9月号)とThe First Monday in May(5月の第一月曜日)
「ファッションはアートであり文化でもある」- ファッション雑誌Vogue編集長、アナ・ウィンターの仕事

なんとも無味乾燥なこのふたつのタイトルを見て、これがファッションに関する映画のタイトルだと知っている人がどれほどいるでしょうか。日本で封切られるときはThe September Issue(2009 )は『ファッションが教えてくれること』となり、The First Monday in May(2015)は『メット・ガラ、ドレスをまとった美術館』というタイトルになりました。どちらもUS版Vogue 編集長アナ・ウィンター(Anna Wintour)の仕事ぶりを追うドキュメンタリー映画です。ウィンターといえば、小説から映画化されて大ヒットした『プラダを着た悪魔』(The Devil Wears Prada, 2003)の、アシスタントに厳しい辣腕編集長ミランダのモデルといわれましたが、今やアメリカのファッション界にこの人ありといわれるほどの有名人なのです。(本人は映画のモデルであることを認めていないといいますが、『プラダを着た悪魔』のワールドプレミア(世界で公開される初日)に招待された際には、本当にプラダを着て登場したそうです。)

1949年生まれ、イギリス『イブニング・スタンダード』紙の編集者の父を持つウィンターは、60・70年代のビートルズやローリング・ストーンズなどのイギリス音楽とファッションにおけるポップ革命を経験。ツイッギーのミニスカートが流行していた時代に名門の私立女子高校に通っていた彼女は、制服のスカートをミニにして校長に注意され、それに反発して中退したといわれます。スカート丈が自分のファッションセンスに合わなかったからということですが、校則よりも自分の信念を貫いたからこそ今の彼女があるのかもしれません。75年にアメリカに渡り、いくつかのファッション誌の編集者を務めながら1988年には38歳でUS版Vogueの編集長になりました。それまではVogueの表紙はモデルに限られていたものが、彼女が編集長になってからは映画俳優などセレブを起用し、ファストファッションのジーンズに高価なアクセサリーを着けるといった斬新な組み合わせの表紙にも挑戦しました。ウィンターはファッション・ジャーナリズムの分野における長年の功績から、2017年5月5日にエリザベス女王からDame(大英帝国勲章第二位)を授与されました。

vouge①
VOUGE 2012年9月号。894ページ、
2,2キロ、3.5センチの厚さです。
表紙はレディ・ガガ。

ファッション界では9月に新しいシーズンが始まり、アメリカではどの出版社でも9月号は趣向を凝らして秋冬ものの最新ファッションを掲載することで知られています。特に何万人もの読者がいるといわれるUS版Vogueは、編集長アナ・ウィンターのもとで校了ぎりぎりまでドレスの撮影や写真の選択などが行われます。映画『9月号』は、840ページ、重さ約2キロ、厚さ3センチ強にもなるという2007年9月号が完成するまでの5ヶ月間の製作過程を、ウィンターの個人的なインタビューを交えながら映し出しています。

一方、今東京で公開されている映画『メット・ガラ』は、2015年5月1日に開幕したメット・ガラ(Met Gala)当日に至るまでの裏方の様子を、ウィンターとメットのキュレーターのアンドリュー・ボルトンの言葉や行動を中心に追ったドキュメンタリー映画です。メットとはニューヨークにあるメトロポリタン美術館(The Metropolitan Museum of Art)、通称Metのこと。メット・ガラまたはメット・ボール(Met Ball)とは、1946年に始まったメトロポリタン美術館服飾部門の活動資金を集めるためのパーティであり、最近はメットの理事でもあるアナ・ウィンターが中心となって、毎年多額の寄付金を集めていることでも注目されています。

映画はまず、メットの地下にある日の当たらない服飾部門で働く人々の様子を映し出します。服飾というと彫刻や絵画などの美術品と比べて一段低く取り扱われているというナレーションから、衣装とかドレスは美術館に展示されるべきものなのかという議論があったことがわかります。ドレスとは職人が作り上げた商品にすぎないという意見がある一方で、衣装は芸術であり美術館の展示品としてその国の文化になりうると考えるウィンターは、メットのキュレーターであるボルトンが設定した2015年のテーマ「鏡の中の中国」をもとに、スタッフと議論を闘わせつつ、5月1日のオープニングを成功に導こうと頭を巡らせます。そして当日、メインゲストである歌手のリアーナの登場によりオープニングは最高潮を迎えます。一人あたり25000ドル(約300万円)という席料にもかかわらず用意された600席はあっという間に売り切れ、会場はテーマに沿ったドレスに身を包んだセレブたちで埋め尽くされます。ウィンターのファッションにかける情熱がアメリカの名だたるセレブたちをメットに集結させ、さらにその様子がメディアに大々的に宣伝されることによって、その厳しさからNuclear winter(地球上のすべての生物が絶滅する核の冬)を文字ってNuclear Wintourと呼ばれる彼女の名声は不動になっていくのです。

シーズンごとのファッションショーでは、10代のときから変わらないという特徴的なボブのヘアスタイルに大きなサングラスを着け、ウィンターは最前列に座って最新ファッションをチェックする様子がさまざまな雑誌に掲載されます。仕事においては冷徹なまでに自分の感性を信じて、決して妥協をせず信念を貫くところにウィンターの強さがあるのでしょう。自分のモットーは10年・20年先の目標を持つこと、前進あるのみ、決して後戻りしないことだと彼女は言っています。彼女はオバマ政権を支持し、ニューヨークファッションを活性化させるなど、アメリカ政財界にも多大な影響力を与えています。これまでニューヨークのファッション界を牽引してきたという自信が、セレブだけでなくファッション業界、さらにファッション好きの一般の人々を引きつけてやまないのでしょう。

今年の5月1日にオープンしたメット・ガラの特別展示は日本のコム・デ・ギャルソンの川久保玲。前駐日大使のキャロライン・ケネディ氏が前衛的なドレスでレッドカーペットを敷き詰めた階段をのぼり話題になりました。