大妻多摩中学高等学校

【校長室より】MARVELとアメリカ社会

MARVELとアメリカ社会

MARVELとは創業1939年、78年の歴史をもつアメコミ出版社Marvel Comicsのこと。DC Comicsと並んでアメリカの二大アメコミ出版社の一つですが、先日までMARVEL展「時代が創造したヒーローの世界」が六本木ヒルズ展望台で公開されていました。そして今、映画界を賑わせているのがアメコミの実写版です。スーパーマン、スパイダーマン、バットマンなどのスーパーヒーローが単独で活躍する実写版はよく知られていますが、最近では、宇宙線を浴びたために超能力を身につけた血縁と友人からなるファンタスティック・フォー(ミスター・ファンタスティック、インビジブル・ウーマン、ヒューマン・トーチ、ザ・シングの4人)や、アイアンマンとキャプテン・アメリカとマイティ・ソーの3人を中心としたヒーロー集団であるアベンジャーズ(復讐者という意味)、突然変異から生まれたミュータントのX-MENなど、チームで悪を倒すコミックも映画化されています。

MARVEL①ミニ

もともとはカラー刷りの32ページからなるアメリカン・コミックスですが、1938年に『スーパーマン』が登場して以来、『バットマン』や『ワンダーウーマン』が生まれ、30~50年代はアメコミの黄金時代と言われました。そしてMarvel Comicsの編集者スタン・リーは1961年に『ファンタスティック・フォー』、翌62年に『スパイダーマン』、続いて『ハルク』、『デアデビル』、『X-MEN』など新しいヒーローを次々に生み出しました。スーパーヒーローにはスーパーマンのように生まれつき超能力を持っているものもあれば、スパイダーマンのように特殊なクモに刺されて後発的に超能力を得たものなどいくつかのパターンがあります。おおかたは完全無欠なキャラクターなのですが、リーが生み出したヒーローはどこか性格的な欠陥があったり悩みを持っていたりと、人間的な弱みも持っている場合が多いのです。特にスパイダーマンは、さえない高校生ピーター・パーカーが超能力を身につけたことで、日常生活や恋愛に悩みながら成長していく姿が読者の共感を呼んだといえるでしょう。

MARVEL②ミニ

 復興を誓ってスーパーヒーロー
たちが市民と立ち上がる。

MARVEL③ミニ

西欧のおとぎ話の魔女や魔法使いが活躍するのが森の中の古城だとすれば、アメコミのヒーローたちが自在に飛び回るのは超高層の立ち並ぶ大都会であり、人間の功罪うずまく摩天楼はスーパーヒーローたちのかっこうの仕事の場でもありました。大都会の悪に対して、一般市民が助けを求めればいつでも駆けつけてくれるヒーローたちは人々の味方であり、安心の源でした。さらに1941年に登場するキャプテン・アメリカは星条旗をかたどったスーツに身を包み、ナチスや共産主義者を敵にまわす、まさしく愛国心の塊のような存在でした。時代を経るにしたがって、それまでのヒーローたちのほとんどが白人だったのに対して、MARVELは時代の変化に合わせて人種や性別も多様なヒーローを生み出していきました。60年代には公民権運動に参加したヒーローもいます。また、2001年9月11日の同時多発テロの直後に製作された号では、哀悼の意を表すように表紙を全面黒塗りにし、テロを予見して人々を救うことができなかったヒーローたちが、ニューヨーク貿易センタービルのがれきに呆然と立ちすくみ、消防士たちと力を合わせてアメリカを復興しようと立ち上がる姿が描かれています。

2016年5月公開の映画『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』は『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(2015)の続編であり、ヒーローによって構成されたアベンジャーズを「ソコヴィエ協定」のもとに国連の管理下に置こうとしたことから、アイアンマンを中心とする賛成派とキャプテン・アメリカを中心とする反対派に分裂、アメリカを二分して戦うというストーリーです。昨年は大統領選挙を契機にアメリカの世論が分断した年であり、19世紀半ばにアメリカが南軍と北軍に分かれて戦った南北戦争(Civil War)にならって、アベンジャーズが二派に分かれて戦う戦争をCivil Warと名付けています。この映画では今まで単独で活躍していたスパイダーマンが、アイアンマンにその能力を買われてスカウトされて賛成派に加わり、エンタテインメントとしてのヒーローと現実の社会を結びつけているところがいかにもアメリカ的だと思います。

かつては遥かに人智を超えた能力をもつスーパーヒーローには完璧さが求められましたが、最近では、彼らが生きる世界が多様化してきたために、彼らも一般市民同様に現実の社会問題と取り組まざるを得ない状況になってきています。そもそも単独で諸悪と戦ってきたヒーローが多数集結すること自体荒唐無稽なセッティングですが、ヒーロー映画の変遷を見ていくことによって社会の変化も見て取ることができるところがアメリカのヒーローものの魅力なのでしょう。