大妻多摩中学高等学校

【校長室より】『Billy Elliot』日本公演

『Billy Elliot』 日本公演

ブロードウェイミュージカルの『リトルダンサー』のパンフレット

ブロードウェイミュージカルの
『Billy Elliot』のパンフレット

ミュージカルBilly Elliotが7月から10月まで赤坂のACTシアターで上演されるという大きなポスターを多摩センター駅で見つけました。海外公演ではなく、日本人俳優による上演であることを知り、日本でも少年ダンサーが育ってきたのだと公演が楽しみになりました。日本では映画『リトル・ダンサー』として知られているかもしれません。

『リトル・ダンサー』は2000年に公開されたイギリス映画ですが、ある少年が女の子ばかりのクラシックバレーのレッスンに通ううちバレーの才能にめざめ、プロのバレリーナになろうと決心する話です。舞台は1984年のイギリス北部ダーラムの炭鉱町エヴァリントン、当時のサッチャー政権下の炭鉱労組のストライキを背景にしています。「リトル・ダンサー」というタイトルは日本語タイトルで、映画の原題は主人公の少年の名前の『ビリー・エリオット』(Billy Elliot)なのです。

この映画は2005年エルトン・ジョン作曲によりミュージカル化され、翌2006年のローレンス・オリヴィエ賞の最優秀新作ミュージカル賞のほか多数の賞を受賞、主役のビリーを演じたトリプルキャストの三人の少年が最優秀主演賞を受賞しました。さらに2008年にはアメリカのブロードウェイでも上演され、翌2009年のトニー賞ミュージカル作品賞をはじめ、ビリー役の三人の少年が主演男優賞を受賞しました。わたしはニューヨークでこの舞台を見ましたが、出演者のほとんどがイギリス北東部の訛りを話すイギリス人の俳優で占められ、アメリカのミュージカルとは異なる政治色の濃いまさにイギリス発のミュージカルでした。大人たちの演技もさることながら、ビリー役の少年の素晴らしいダンスにすっかり魅せられたのを覚えています。

母を亡くし、父親の手で育てられたビリーは年の離れた兄と祖母の4人暮らし。炭鉱夫の父と兄はビリーを男らしく育てたいとボクシングジムに通わせますが、ビリーはたまたま見かけたバレー教室に興味を持ち、家族に内緒でバレーを習い始めます。折から業績悪化の炭鉱を閉鎖しようとのサッチャー政権に対して、全国炭鉱労組は各地でストを繰り返して対決、ビリーの父親の炭鉱でもしばしば警官との小競り合いが起きます。労働組合に入っているビリーの父親は仲間とともにストを繰り返しますが、プロのバレリーナになりたいという息子の夢を叶えるために仕事に就き、スト破りをして組合を裏切るのです。

1979年から90年まで続いたイギリス初の女性首相サッチャーによる保守党政権は、それ以前の労働党政権の財政難を立て直そうと公共事業を削減して民営化しようとします。その結果、所得税を減税することにより企業活動を活発化させ、労働組合活動を制限して組合の弱体化をはかろうとしました。イギリス最強の労組であった炭鉱労組は1984年から85年にかけてストを決行し、政権側は積極的に組合つぶしを行ったため組合の組織力は低下し、外国資本の導入につながりました。『リトル・ダンサー』の背景には、炭鉱労組のサッチャー政権に対する合理化反対闘争があったのです。その結果、サッチャー政権は新自由主義的な経済政策を断行することによって逼迫していたイギリス経済は回復をみせますが、同時にイギリス社会に過酷な格差をもたらしました。

同じくイギリスのヨークシャーの炭鉱町を舞台に製作された映画に『ブラス!』(1996)があります。原題はBrassed off,、文字通り「うんざりだ」とか「怒っている」という意味と、映画に登場する炭鉱夫仲間のブラスバンドという意味合いもあります。炭鉱閉鎖か存続かの瀬戸際に立たされた炭鉱夫たちが、ブラスバンド演奏を通してサッチャー政権を批判するというストーリー。『リトル・ダンサー』とともに、イギリスのサッチャー政権下で取り残されようとしている労働者階級の怒りとエネルギーを表わしている映画です。