大妻多摩中学高等学校

【校長室より】実写版『美女と野獣』その2― ディズニープリンセスの変化

実写版『美女と野獣』その2― ディズニープリンセスの変化

美女と野獣

少女たちのロールモデルとして、時代の変化によって変わっていくディズニーアニメのプリンセス像ですが、最近のプリンセス像には以前と大きな変化があるのにお気づきでしょうか。ディズニープリンセスが登場するアニメには1937年に製作された『白雪姫』から2014年に製作された『アナと雪の女王』までありますが、これまでに13人のプリンセスが登場しています。 名前を挙げてみると、白雪姫、シンデレラ、オーロラ姫、アリエル、ベル、ジャスミン、ポカホンタス、ムーラン、ティアナ、ラプンツェル、メリダ、アナ、エルサと続きますが、生まれながらのプリンセスは白雪姫、オーロラ姫、アリエル、ジャスミン、ラプンツェル、メリダ、アナとエルサの8人。シンデレラはプリンスと結婚してプリンセスになりますがもともとは平民の生まれ、ベルの父の職業は原作では商人、映画では発明家です。ポカホンタスは首長の娘ということでプリンセスという立場に近いですが、彼女の相手となる男性は冒険家のジョン・スミスです。またムーランも生まれは王家ではありません。弓の名手メリダは生まれはプリンセスですが髪の毛は伸ばしっぱなし、プリンセスらしからぬ風貌です。また人気のアナとエルサですが、二人はプリンセスですがアナの相手となるクリストフは山男であり、後に女王となるエルサも結婚相手としてのプリンスを求めてはいません。ディズニーはこれらのキャラクターをひっくるめてディズニープリンセスと呼んでいるようです。こうしてみると、プリンセスと呼ばれるには、生まれが高貴なことと高貴な生まれのプリンスと結婚することが条件になってきますが、最近では自らの生きる道を切り開くことができるのがプリンセスの条件にも思われます。

ではこれらのプリンセスたちの行動は時代に応じてどのように変化してきたでしょうか。

『白雪姫』(1937)、『シンデレラ』(1950)、『眠れる森の美女』(1959)では、主人公のプリンセスはプリンスの出現を待っているだけ。きわめて受身的であり、女の子は美しく素直で従順であれば地位と財力のある男性に愛されて結婚すれば幸せになれるという教訓で、「プリンスとプリンセスは末永く幸せに暮らしましたとさ」という一文で終わります。1970年代の第二波フェミニズムを経て制作された『リトル・マーメイド』(1989)、『美女と野獣』(1991)、『アラジン』(1992)以降は、プリンセスの相手は必ずしもプリンスでなくてもよく、主人公には自立心と精神的な強さがあります。彼女たちは前の時代の3人のプリンセスのように一目惚れではなく、恋愛のプロセスを踏んで結ばれます。また、ここまでのプリンセスは『アラジン』のジャスミンを除いてはヨーロッパ系の白人です。さらに時代が進むと、『ポカホンタス』(1995)はネイティブアメリカン、『ムーラン』(1998)は中国人というようにディズニーは多文化主義を大いに意識して欧米系白人ではないプリンセスを主人公に据えています。この二人は自立しており必ずしも自分を支えてくれるプリンスを必要とはしていません。さらに2009年になるとオバマ大統領を意識してか、『プリンセスと魔法のキス』では初の黒人プリンセスのティアナが登場します。『塔の上のラプンツェル』(2010)は魔女によって塔に幽閉されたラプンツェルの物語ですが、成長するに従って美しくなるラプンツェル(娘)に対する魔女(母親)の嫉妬が描かれています。ラプンツェルは自由を求めて塔の外の世界へ踏み出そうとしますが、これは母親から自立する娘の行動であり、その手助けをするのはプリンスではなく盗賊です。また大ヒットした『アナと雪の女王』は従来のディズニープリンセス物語をなぞってはいますが、アナとエルサの目的はプリンスとの結婚ではなく、プリンスは登場しますが悪人であり、ここで描かれるのは姉妹の強い絆です。

ここで改めて実写版の『美女と野獣』に戻ってみると、ベルは自主的に村の図書館に通って本を読んで知識を深め、小さな女の子たちに読み書きを教えようしますが、余計なことをするなと女の子の親からは冷たく扱われます。彼女は読書のほかに父親の手助けをしたり村の洗濯屋としての仕事をするなど行動的であり、ガストンに言い寄られても言葉で言い返して彼を追い返します。彼女は父が行方不明になったと知るや、自ら馬を駆って捜索に出かけます。野獣の城の尖塔に幽閉されたことを知った時、彼女は策を練ってそこから脱出しようと試みます。何をするにも誰かの助けを待つのではなく、まず自分から行動を起こすのがベルなのです。やがて、城ばかりか調度品までもが魔法にかけられていることを知ったベルは、なんとかしてこの魔法を解く方法を考えます。調度品たちの助けもあって、ベルは野獣と心を通わせるようになります。

エマ・ワトソン主演のこの映画で、自立を謳っているベルが幽閉されているうちに野獣に惹かれていくのは矛盾している、犯人によって監禁された女性がその犯人を好きになるという「ストックホルム症候群」ではないかと映画評で書かれたとき、エマは、幽閉されたとき常に野獣に反抗して自立心を保っていたこと、さらにベルが野獣の城からの脱出を試みたことを挙げて反論しています。ベルは最初は野獣の野蛮さを嫌っていましたが、一緒にいるうちにその内面に秘めた思いを知り、最初は友情から、そしてそれが思いやりや愛情に変わっていったのだと語っています。原作のベルは父親に従順なやさしい少女としてしか描かれていませんが、今回の実写版『美女と野獣』で、ベルは自立心旺盛で自由な考えをもった知的な少女へと変わったといえるでしょう。