大妻多摩中学高等学校

【校長室より】『オズの魔法使い』

「家ほどいいものはないわ」(There’s no place like home)――アメリカで生まれたファンタジー『オズの魔法使い』(The Wonderful Wizard of OZ)

 

オズの魔法使い①

『オズの魔法使い』(以下『オズ』)といえば、カンザス州の田舎に住む孤児のドロシーが竜巻に巻き上げられてマンチキンの国にたどり着き、「かかし」と「ブリキのきこり」と「ライオン」と一緒に不思議な国々を旅してまわり、みんなの願いを叶えてくれるというオズの魔法使いに会いに行く話です。お供をつれて旅をするというと、桃太郎のお供の雉・猿・犬とか『西遊記』の三蔵法師のお供する孫悟空・沙悟浄・猪八戒を思い出しますが、主人と従者という童話にはよくあるパターンです。タイトルは『オズの魔法使い』ですが、「オズ」が実際に登場するのは後半三分の一なので『ドロシーの不思議な国の冒険』でもよいのかもしれません。ところで日本語訳の「魔法使い」ですが、英語では‘Wizard’は男性の魔法使いを指し、女性の場合は‘Witch’(魔女)となります。この『オズ』には、魔女や魔法使いが登場するといってもこれまでの童話やファンタジーとはちょっと違い、良い魔女と悪い魔女は魔法を使いますが、オズは超能力を使えません。彼は物語後半で明らかになりますが、ネブラスカ州のオマハから気球に乗ってエメラルドの街にやってきた手品師なのです。彼は手品(マジック/テクノロジー)を使ってエメラルドの都の王になり国民に恐れられていましたが、本当は気の弱い詐欺師であり、結局はまた気球に乗ってどこかに行ってしまいます。

1856年にアメリカニューヨーク州の裕福な家庭に生まれた作者ライマン・フランク・ボームは、上手な作文を書けば親が印刷機を買ってくれて新聞を発行したり、演劇が好きだといえば親が劇場までプレゼントしてくれるような裕福な家庭に育ちました。結婚してシカゴに暮らすようになると、自分の子どもが喜ぶような童話を次々と発表しました。『オズ』シリーズはベストセラーになり、彼は続編を次々と出版することになるのです。
ちなみに‘OZ’ですが、自宅の整理ダンスの上段にA-G、中段にH-Nとアルファベットが書いてあったのを見たボームが、下段のO-Zを見て魔法使いの名前にしたということです。

ボームが成長した時代は南北戦争後のアメリカの工業化が急速に進んだ時代で、アメリカは19世紀末までには世界で最も技術革新のめざましい国となりました。コロンブスによる新大陸発見400年を記念して開催された1893年のシカゴ万博は、電気の活用を世界におおいにアピールした博覧会であり、世界初の巨大観覧車や係留気球など大がかりなアトラクションが人気を集めました。

オズの魔法使い③

そして1900年に、グリムやアンデルセンの童話に影響を受けたボームが書いたものがこの『オズの魔法使い』だったのです。背景となるのは開拓時代を思わせるような灰色の荒涼としたカンザスの大平原、このあたりは自然環境も厳しく、竜巻がしばしば起きることでもよく知られています。統計的に見ても竜巻はアメリカ中部テキサス、カンザス、オクラホマ、フロリダ、ネブラスカ州などに多発しています。『オズ』の冒頭の場面では、竜巻が襲ってきたときエムおばさんとヘンリーおじさんは地下室に逃れますが、逃げ遅れたドロシーは愛犬のトトを抱えたまま竜巻に巻き上げられ、小柄な人々が暮らすマンチキン国に到着します。ドロシーが東の悪い魔女を退治したと思ったマンチキン人は、すべての国を支配するのはオズの魔法使いだと話します。家に戻りたいドロシーは「脳みそのないかかし」、「心臓のないブリキのきこり」、「臆病なライオン」と出会い、それぞれの願いをオズにかなえてもらおうと、彼のいるエメラルドシティを目指します。

これまで童話と言えば古城や魔女や妖精の住む森を舞台に、王様や妃、そして王子と王女が登場すると決まっていましたが、その背景とストーリー展開から『オズ』はアメリカ初のファンタジーと言われます。『オズ』はアメリカ開拓民のアメリカンドリームを希求する、言い換えると、努力によって目標を叶える物語であり、ドロシーの冒険物語であると同時に、彼女がお供のかかしやきこりと協力してさまざまな発見をしていくという成長物語でもあるのです。ドロシーは、『少女パレアナ』(ポリアンナ)のパレアナ、『秘密の花園』のメアリー、『アニー』、カナダ文学ですが『赤毛のアン』のアンのように孤児として登場します。これには、伝統と歴史のある大英帝国が成熟した大人だとすれば、移民として移住してきたアメリカ人はその子ども、それも未熟な少女だという解釈もなりたちます。オズの魔法使いがドロシーを残して去り、一人残されたドロシーはカンザスの自宅に戻りたいと願います。南の良い魔女の助けを借りて銀の靴のかかとを三回合わせると、彼女はあっという間にエムおばさんとヘンリーおじさんのいる自宅に戻ることができるのです。1939年製作のジュディ・ガーランド主演の映画『オズの魔法使い』では、ドロシーは「家ほどいいものはない」(There’s no place like home.)という呪文を三度唱えることによって帰宅を果たしますが、原作にないこのフレーズが有名になりました。

 

オズの魔法使い② オズの魔法使い④
 図書室には洋書のオズシリーズが揃っています。
飛び出す絵本もありますので、手にとってみてはいかがでしょう。

ドロシーは冒険によってどんな少女に成長したのか、「かかし」と「きこり」と「ライオン」は何を表わしているのか、良い魔女と悪い魔女はどうして存在するのか、オズの大魔王はどのような人なのか、「家に帰る」とはどういう意味をもつのか。『オズ』はたんなる冒険談として読める以上にさまざまな「不思議」を感じさせる物語です。童話といっても「すてきな王子様と末長く暮らしました」で終わるのではない、不思議な魅力を持った物語です。

原作を読んだら、アメリカ映画の黄金時代到来を告げるのにふさわしい1939年製作の映画『オズの魔法使い』も是非あわせてご覧ください。CGを見慣れた目にはとても新鮮に映ります。最近ではブロードウェイミュージカルの『ウィキッド』が上演されたり、リメイク映画も公開されましたが、この1939年度版の映画『オズ』は、現代のどの『オズ』よりも原作の楽しさを表現していると思います。