大妻多摩中学高等学校

【校長室より】イギリス女性参政権運動の名もなき花たち

イギリス女性参政権運動の名もなき花たち

イギリス女性参政権運動の名もなき花たち①

監督、製作、脚本、主演に至るまですべて女性によって完成した映画『未来を花束にして』(英題 Suffragette)が公開中です。この映画は20世紀初頭、イギリスの女性参政権運動のなかでも過激な活動によって権利を獲得しようとした「サフラジェット」と呼ばれる女性たちの物語です。ロンドンの洗濯工場で生まれ育ち、上司からのセクハラを受けながらも、男性とは比べもののならないほどの低賃金で母と同じ洗濯工場に勤めるモードを中心に、教育もない彼女が「もしかしたら別の生き方があるかもしれない」と感じて、理不尽な状況を変えるべく過激な運動にのめりこんでいきます。
モードは運動のカリスマ的リーダーであるヘレン・パンクハーストと、表向きは薬局を営む行動的リーダーであるイーディスに強い影響を受け、彼女らの指示のままに無軌道な行動に出ては収監され、ハンガーストライキを実行するも拷問まがいの強制食餌というひどい扱いを受けます。この運動を動かしたほとんどの女性たちは、モードのような労働者階級の名もなき弱者だったのです。

19世紀後期から始まったイギリス女性参政権運動は20世紀に入ってより過激になり、特に女性社会政治同盟(WSPU:Women’s Social and Political Union)に参加するような好戦的なメンバーを、一般的な女性参政権運動家「サフラジスト(Suffragist)」と区別して「サフラジェット」と呼びます。リーダーであるパンクハーストに率いられた彼女たちの運動は次第に戦闘的になり、郵便ポストの爆破や器物損壊など反社会的行為を繰り返しては収監されますが、政治犯としての扱いを拒否されたことに対してはハンガーストライキで抵抗を繰り返しました。彼女たちの運動が功を奏してか、第一次大戦後の1918年、30歳以上の女性の選挙権が与えられ、1925年には母親の親権が法律で認められ、1928年に男女平等の普通選挙権が実現しました。
ちなみにアメリカでは19世紀半ばの南北戦争(1861-65)を契機に女性参政権運動が活発になりましたが、女性たちが選挙権を獲得したのは1920年のことでした。日本では昨年選挙権が18歳に引き下げられましたが、20歳以上のすべての男女に選挙権が与えられたのは第二次大戦後の1945年でした。
ちなみに女性参政権はWomen’s suffrage、女性参政権運動はWomen’s suffrage movementといいます。

『未来を花束にして』はケリー・マリガン演じるモードが、運動に参加したがゆえに子どもの親権も奪われ、同じ立場の無名の女性たちとの連帯を強め活動家へと成長していく姿が描かれています。映画のタイトルをそのまま訳せば「急進的女性参政権活動家」です。これがどうして『未来を花束にして』という安易で中途半端なタイトルになってしまったのでしょう。今から100年前、社会的弱者として差別されていた女性たちが自らの権利を獲得するには違法な手段も辞さなかった、というこの映画の主旨がこれでは伝わりません。実はこの「花束」とは、収監された女性たちが解放されるときに手渡される、彼女たちを支援するWSPUからの小さな花束なのです。この花束は無名の女性たちの集まりも意味していますが、邦題を見る限り単なるシスターフッドを確認する映画にしか見えないのが残念なところです。運動のリーダー、パンクハーストをメリル・ストリープ、行動するリーダーであるイーディスをヘレナ・ボナム・カーターが演じています。
女性が参政権を獲得するには、リーダーの活動家を支える多くの無名の女性たちの存在があったことを生徒のみなさんにも知っていただきたいと思ってこの映画を紹介しました。