大妻多摩中学高等学校

【校長室より】エリザベス、ヴィクトリア、マーガレット

エリザベス、ヴィクトリア、マーガレット

エリザベス

アメリカ映画の中の大統領は国の威信を世界にアピールするために、たいていは歴史的事件などのノンフィクションの中心人物として、またはアクション映画やコメディの主役として登場します。一方イギリスでは、歴史に翻弄された女王の人となりにスポットを当てた作品が多いことに気付きます。

第71回アカデミー賞最メイクアップ賞受賞のほか英国アカデミー賞やゴールデン・グローブ賞など多数の映画賞に輝いたイギリス映画『エリザベス』(Elizabeth, 1998)では、ケイト・ブランシェットが演じるエリザベス一世(1533-1603、在位1558-1603)の前半生が描かれています。この作品では、25歳でイングランド女王に即位するまでのエリザベスとダドリー卿とのロマンスに重きが置かれていますが、エリザベスは政治と宗教対立に巻き込まれ、最終的には卿を拒絶、国家との結婚を選ぶのです。映画では、わたしたちは豪華絢爛たる衣装に身を包んだ戴冠式でのエリザベス一世の姿に目を奪われます。この映画公開と同年に、ダドリー卿を演じたジョセフ・ファインズが文豪シェイクスピアを演じるアメリカ映画『恋に落ちたシェイクスピア』(Shakespeare in Love)が公開されて第71回アカデミー賞最優秀作品賞に輝き、この2本のコスチューム映画(いわゆる時代劇)は興行的に大成功しました。

2009年制作の英米合作映画である『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(The Young Victoria)は、ヴィクトリア女王(1819-1901)の若き日のロマンスを扱っています。女王の在位期間は1837年から1901年と長期にわたり、イギリスは産業改革後の経済発展の全盛期を迎え、芸術分野でもロマン派の小説や詩歌、絵画などの最高傑作が生まれました。内容は邦題どおりのロマンス。若いヴィクトリアが政治の波にもまれながらも、9人のこどもをもうけたドイツ人の夫アルバートとの強い絆を描いたもの。
夫妻がその基礎を作ったロンドンの「ヴィクトリア&アルバート美術館」にはヴィクトリア朝の膨大な工芸品や美術品が所蔵されています。ロンドンに行くことがあったら是非訪れてみてください。展示されている当時の家具や食器には必ずV&Aのマークがついており、ミュージアムショップにも同じマークのついたたくさんのお土産物であふれています。

二人目のエリザベスは英仏伊合作の『クイーン』(The Queen, 2006 )のエリザベス二世。この作品は、ダイアナ元皇太子妃の事故死直後の、エリザベス女王の7日間の心の動きを克明に描いたフィクション映画です。世界中が涙したダイアナ妃死去の知らせに、すでにチャールズ皇太子と離婚していたダイアナを、王室とはもはや関係ないと見なした女王に対する冷たい批判に彼女はどう応えるか。当時の首相ブレアとの関係も描きつつ、世論を無視しようとする女王の孤独が描かれています。このときの英王室(女王)の対応から一時は王室不要論まで飛び出したイギリスでしたが、ダイアナ妃の長男であるウィリアム王子の結婚と女王の長期在位により、英王室の人気は再びかつての勢いを取り戻しています。テレビドラマでエリザベス一世を演じたことのあるヘレン・ミレンが人間味あふれる女王を好演し、79回アカデミー賞作品賞と主演女優賞をはじめ数々の賞を受賞しました。

そして最後のマーガレットは、英国初の女性首相マーガレット・サッチャー(1925-2013、首相としての在職期間は1979-1990)です。イギリス映画『マーガレット・サッチャー:鉄の女の涙』(The Iron Lady, 2011)の冒頭シーンには、夫の他界後、子どもたちも独立して一人で晩年を過ごす老いたマーガレットの姿が映し出されます。自伝の出版記念会でサインをしながら、彼女はかつて「鉄の女」と呼ばれた過去の栄光に思いをはせます。この映画はマーガレットの娘が書いた伝記を元に作られたということですが、認知症の兆候の出始めたマーガレットの回想として描かれています。マーガレットは、少女時代から政治に関心を持ち始め、大学時代を経て結婚して下院議員に選出され、さらに女性とした英国初の保守党党首から英国史上初の首相にまで上り詰めます。しかし彼女を待ち受けるのは、高い失業率とフォークランド紛争をはじめとする政治危機でした。監督はイギリス人女性のフィリダ・ロイド、マーガレットを演じるのは完璧なブリティッシュアクセントを操るアメリカ人女優のメリル・ストリープ。マーガレットの心の機微を演じたストリープは、この作品で第84回アカデミー賞主演女優賞を受賞しています。
2016年7月13日にイギリスで二番目の女性首相テレーザ・メイが誕生しました。その辣腕ぶりから「鉄の女」と呼ばれたマーガレット・サッチャーですが、テレーザは感情をあまりあらわにしないことから「氷の女王」(Ice Queen)と呼ばれているそうです。

今まで書いてきたように、英国女王や女性宰相は映画化されうる美しさと偉大さを兼ね備えていますが、英国国王は映画の中でどのように描かれているでしょうか。

1994年制作のイギリス映画『英国万歳!』(The Madness of King George)は、国王ジョージ三世(1738-1820)の狂気をコメディ化した作品。時は産業革命の最盛期、産業や交通が大きく近代化に向かおうという時代、子宝に恵まれたジョージ三世が晩年神経を病んでいたという史実に基づいています。下着姿で宮殿を走り回る国王の姿に、皇太子は次期政権を狙い、側近たちはそれを阻止しようとします。
また2010年制作の英・豪合作映画である『英国王のスピーチ』(The King’s Speech)は、吃音に悩まされた国王ジョージ6世(エリザベス女王の父)と彼の吃音治療にあたった言語療法士との友情を描いた作品です。映画では国王が吃音を克服し、素晴らしいスピーチをして国民から喝采を浴びる場面で終わります。第83回アカデミー賞では、最優秀作品賞のほか、国王を演じたコリン・ファースが主演男優賞を受賞するなど主要な賞を総なめしました。

イギリス映画はアメリカ映画と比べてスペクタクル性は少ないけれど、人間ドラマを描くという点では大変優れていると思います。それはおそらくシェイクスピアの時代からの演劇の伝統がその根底にあるからでしょう。それにしても、女王と国王が登場する映画を比較してみると、やはりイギリスは女王の存在が大きいと感じざるをえません。そしてもう一人忘れてはならないのは、チャールズ皇太子妃ダイアナでしょう。非業の死を遂げて20年近くたったとはいえ、映画やテレビドラマなども製作され、未だに彼女の人気は衰えません。最近ではウィリアム王子の妻であるキャサリン妃の人気も上昇中、ファッションなどもダイアナ妃と比較されるキャサリン妃ですが、英国王室の存在を世界にアピールする大きな要素にもなっています。サッチャー首相に次ぐ女性首相が生まれた今、映画という視点から女性の地位を見てみるのも面白いものです。