大妻多摩中学高等学校

【校長室より】我が猫

『我が猫』から『せか猫』まで

猫①

猫小説といってまっさきに思いつくのは夏目漱石の『我が輩は猫である』だと思います。「我が輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生まれたのか頓と見当がつかぬ」という書き出しから始まる『我が猫』は、中学校の英語教師である珍野苦沙弥先生の飼い猫の視点から書かれています。この猫はもともと漱石の家に迷い込んだ黒猫がモデルと言われていますが、「我が輩」の飼い主である苦沙弥先生も漱石自身がモデルだということです。

猫が登場する海外小説となると、(あくまで個人的見解ですが)まずアメリカ人作家ポール・ギャリコの『ジェニィ』が頭に浮かびます。交通事故で白猫に変身した少年ピーターは野良猫のジェニィと出会い、彼女に人生の様々なことを教えてもらって成長します。猫文学としても児童文学としてもよく知られた作品です。同じくアメリカ人の作家ですが、エドガー・アラン・ポーの『黒猫』も有名ですね。心の中を飼い猫プルートーに見透かされたように感じた主人公は猫を殺してしまいますが、その直後からプルートーにそっくりな猫につきまとわれ、自暴自棄になった彼はその猫を殺そうとして誤って妻を殺してしまいます。遺体の隠し場所に困った彼は、地下室の壁に塗り込めることを思いつきますが、実は妻の遺体と一緒にその猫も生きたまま壁に閉じ込めてしまったのでした。詩人であるポーがアメリカ推理小説の祖として知られるようになる有名な作品です。フランス文学ですと、サハという猫に魅入られた男とその妻の関係を描いた『牝猫』がありますね。猫好きの間では有名な作品です。イギリス小説で有名な猫といえば、『不思議の国のアリス』のチェシャ猫が知られています。にやにや笑いをしながら消えていくという不思議な猫です。

最近では猫ブームのせいか、猫が重要な役割をする小説のほとんどが映画化されています。代表的なものを挙げてみましょう。2011年に本屋大賞を受賞、2013年に映画化された三浦しおん作『舟を編む』は、国語辞典『大渡海』の編纂に取り組む出版社の編集部員たちが主人公です。「辞書は言葉の海を渡る舟だ。海を渡るにふさわしい舟を編む」というところからタイトルがつけられています。映画では編集部に勤務する馬締(まじめ)光也と下宿の大家の孫娘の香具矢(かぐや)の恋愛に焦点が当てられます。人付き合いの下手な馬締の飼っているのが猫のトラさん。2015年に映画化された『先生と迷い猫』の原作は、埼玉県岩槻市で実際にあった猫失踪事件をベースにした木附千晶のノンフィクション小説『迷子のミーちゃん 地域猫と商店街再生のものがたり』。映画では妻に先立たれた元校長が、妻の愛猫ミイを探しているうちに地域の人々との温かな人柄に触れていくという物語です。『猫よん』と呼ばれている『猫なんかよんでもこない』は、杉作のノンフィクションマンガ(実話コミックス)をもとに制作されました。漫画家の「アニキ」の拾ってきた二匹のきょうだい猫クロとチンを買う羽目になったプロボクサーの「オレ」は、試合のけがが元で選手生命を絶たれてしまいます。もともと犬派で猫嫌いの「オレ」は二匹を飼ううちに自分自身を見つめ直すようになるというストーリー。

『世界から猫が消えたなら』は2013年本屋大賞ノミネート作品で、LINE連載小説としてラジオドラマ化された後映画化が決まりました。原作は川村元気。愛猫キャベツと暮らしている30歳の郵便配達員「僕」は脳腫瘍を患い余命わずかと宣告されますが、大切なものをひとつ消す代わりに一日分の命を約束するという悪魔が登場、大切なものが一つずつ消えていくことにより、彼は失ったものの大切さに気づかされます。主人公の僕と悪魔を佐藤健が、彼女を宮崎あおいが演じるということで封切り前から話題になっています。

このほかに思いつくまま挙げてみても、シャルル・ペローの童話『長靴をはいた猫』、アメリカのアニメ『トムとジェリー』、日本の『ドラえもん』『魔女の宅急便』のジジなどが浮かんできます。もちろん犬が主人公になったり、犬が重要な役割を果たす小説や映画はたくさんありますが、猫は気ままなだけに、人の心を読むという点でもビジュアル的にも小説や映画には向いている動物なのかもしれません。また犬のように人間との親密な主従関係から解放された猫の自由奔放さが、猫好き小説家にとっての格好な題材となるのでしょう。