大妻多摩中学高等学校

【校長室より】第26期生 高校卒業式

第26期生 卒業記念の人文字 大妻高等学校3年生のみなさんへ
卒業式に寄せて

             校長 谷林眞理子

 

皆さん、大妻多摩高等学校ご卒業おめでとうございます。
保護者のみなさま、お嬢様がたのご卒業を心よりお喜び申し上げます。

皆さんの頭の中には、今6年間の多摩中高での出来事がつぎつぎと思い出されていることでしょう。日本国内でもさまざまな出来事が起きました。みなさんが入学なさったのは2010年、翌年の2011年3月、みなさんが一年生の春にあの東日本大震災が起きました。現在の在校生の中で、みなさんが学校でこの震災を体験した唯一の学年ということになります。そして翌2012年にはスカイツリーが建ち、IPS細胞を開発した山中伸弥京大教授(当時)がノーベル生理学・物理学賞を受賞しました。女性の活躍という点になると2010年には山崎直子さんがスペースシャトル・ディスカバリー号で宇宙に打ち挙げられ、翌2011年7月にはなでしこジャパンがサッカー女子ワールドカップで初の世界一を勝ち取りました。ついこの間の出来事のような気がします。日本人だけでなく世界各国での女性の活躍には目を見張るものがあります。

昨年度のノーベル文学賞はベラルーシの女性作家スベトラーナ・アレクシェーヴィッチさんに与えられたのをご存じでしょうか。文学賞というと小説や詩を書く人に与えられるというイメージがありますが、アレクシェーヴィッチさんは新聞記者出身のノンフィクション作家であり、代表作は『戦争は女の顔をしていない』(1997)です。この本は、第二次世界大戦に兵士として参加したソビエトの女性の証言を集めたものです。アレクシェーヴィッチさんは、これまで男性の言葉によってのみ語られてきた戦争を、衛生指導員、狙撃兵、機関銃射手、高射砲隊長として参戦した女性にインタビューして、「女性の言葉で語られる女性の戦争観」をまとめました。彼女は「『大きな歴史』がふつう見逃したり見下したりする側面」に光を当て、今まで取り上げられることもなかった、あるいはひた隠しにされてきた無数の一般市民の声を集めて一冊の本にしたのです。

アレクシェーヴィッチさんのノーベル賞受賞は何を意味するでしょうか。彼女はロシア語を話すベラルーシという小国の生まれであり、ノーベル賞受賞者を多数輩出している欧米の出身ではありません。また彼女はベストセラー小説を書いた人気作家でもありません。地道な取材活動から始まった彼女の著書は、ドキュメンタリー文学の最高傑作と言われながらも、ソビエトでは反体制というレッテルを貼られ、彼女自身、西欧諸国の支援により国外に暮らさざるを得ない状況だといいます。その上、彼女の著作はここ10年以上、ベラルーシでは出版されていません。

ノーベル賞は「人類にとって最大の貢献をした人に与える」というノーベルの遺言から1901年に始まり、2015年までに全世界で900名が受賞していますが、女性受賞者は約5パーセントの48名に過ぎません。その意味で、長年の努力と忍耐の末のアレクシェーヴィッチさんの受賞は大変価値のあるものといえるでしょう。

女性の地位が低く、まだ十分に社会で活躍することができない1908年に、女性が手に技術をつけて経済的自立を果たすために大妻学院の基礎を創られた学祖大妻コタカ先生は、女子教育界の先駆的存在といえます。21名の卒業生から始まったという塾は10年もたたないうちに卒業生1000名にもなったと記されていますが、コタカ先生の道のりは決して順風満帆だったわけではありません。1922年の関東大震災、1945年の空襲により校舎は2度の焼失に遭い、さらに戦後は、あらゆる婦人団体に影響力があったという理由から、理事長としての公職を5年間追われ、学校の近くに住むことも禁じられたということです。

「理想は高遠に、実行は足下から」はコタカ先生が好んで使われる言葉です。先生はどのようなときも必ず「夢をもって、情熱を捨てないように」とおっしゃっています。手が届かないと思っても、一歩一歩をしっかり踏みしめていけば必ず理想は実現するものです。

みなさんは本日をもって大妻多摩を卒業し、それぞれの夢の実現のために異なった分野に進学なさいます。これからは人に頼ることなく、自分の心の指し示す方向に向かって自分の能力をさらに高めていただきたいと思います。大学生活は長い人生のうちではほんの通過点にすぎません。本当の人生はその先の社会に出たときなのです。みなさんが望めば、そして努力をすれば宇宙飛行士にも、ノーベル賞級の発見をする科学者にもなれます。そのころまでには女性宇宙飛行士とか女性物理学者というように、あえて「女性」であることを断らなくてよい時代になるでしょう。

理想を高くもてば、夢は叶うはず、そして夢が実現したら、その力を社会のために役に立ててください。それでこそ大妻多摩の精神が生かされるというものです。

ご卒業おめでとう。これでお祝いのメッセージとさせていただきます。