大妻多摩中学高等学校

【校長室より】アメリカ少女小説に孤児が多いわけ

英米の少女小説のヒロインに「孤児」が多いわけ。

『スターウォーズ、フォースの覚醒』の項で「家族探しをする孤児の少女」レイについて書きましたが、日本の少女マンガのモデルともいわれる英米少女小説のヒロインに孤児が多いのはどうしてなのでしょうか。イギリスのシャーロット・ブロンテ作『ジェイン・エア』のジェイン、イギリス生まれでアメリカに移り住んだフランセス・ホジソン・バーネット作の『小公女』(1905)のセーラ、『秘密の花園』(1911)のメアリー、カナダのルーシー・モンゴメリー作『赤毛のアン』(1908)のアン、アメリカのスーザン・クーリッジ作『ケティ物語』(1872)のケティ、ジーン・ウェブスター作『あしながおじさん』(1912)のジュディ、エレノア・ポーター作『ポリアンナ』(1915)のポリアンナなど、思いつくまま挙げてみてもたくさんいます。

キャンパスの桜のつぼみ①
春はそこまで。
キャンパスの桜のつぼみ

これらの孤児の少女の多くが、遠くの祖父母や親戚の家に預けられて環境の変化に苦労しますが、ポジティブな性格が幸福な家庭を引き寄せます。『小公女』のセーラは、母亡き後、父親と暮らすインドからロンドンの寄宿学校で預けられます。父が亡くなるとセーラはミンチン校長からひどい扱いを受け屋根裏部屋に追いやられますが、もちまえの明るさと想像力で苦しさをはねのけます。『秘密の花園』のメアリーは両親の死後おじに引き取られ、荒れ放題になっている「秘密の花園」を発見します。『ポリアンナ』のポリアンナも両親亡き後、母の妹である独身のおばにひきとられますが、彼女の超ポジティブな性格が周囲を巻き込みます。アメリカ初のファンタジーといわれる『オズの魔法使い』(1900)のドロシーの育ての親はおじさんとおばさん、彼女は竜巻に巻き上げられて「オズの国」に行きますが、悪い魔女を退治するなどの大冒険ののち「自分のうちより良いところはない」とおじとおばの家に戻ります。

孤児院出身の少女も多く、少女小説の中でも人気のある『赤毛のアン』では、カナダのプリンスエドワード島を舞台に、老兄妹に引き取られた孤児のアンの青春が描かれています。アンと同様、『あしながおじさん』のジュディもその楽天的な性格から周囲に良い影響を及ぼします。新聞連載マンガからミュージカル映画にまでなった『アニー』(1924~)の原題は『小さな孤児のアニー』。大恐慌後の1930年代を背景に、アニーは形見のペンダントを胸に自分を捨てた両親を探そうとします。三人とも明るい性格が功を奏して幸せな人生を切り拓きます。

従軍牧師として南北戦争に赴いた父親に代わって4姉妹が母を助け、貧しいながらも明るく地域のために尽くすというルイザ・メイ・オルコット作『若草物語』(1868)もこの範疇に入るでしょう。もともと『若草物語』は出版社の要請で少女たちに家庭の温かさ、お行儀やマナーなどを教える「家庭小説」として書かれたものですが、自立心旺盛な次女のジョーはもちろんのこと、姉妹それぞれが「手本となる良い少女」を逸脱する行動をするところに著者オルコットのオリジナリティが感じられます。

キャンパスの沈丁花②
キャンパスの沈丁花

それでは、このヒロインたちが孤児であることの背景や意味を考えてみましょう。19世紀末から20世紀にかけての欧米では貧富の差が大きく、病気や戦争などで親を亡くしたこどもがたくさんいました。またおおっぴらに離婚できないまでも結婚の破綻によりこどもを養育できなくなった親も存在しました。恵まれない境遇の少女が、遠方に住む偏屈で意地悪なおじかおばに預けられるが、生まれながらの明るい性格で周囲の人々にも良い影響を与え幸せに暮らすとか、一度は劣悪な状況に追い込まれるが父の遺産があることがわかって幸せになるというような劇的変化は読者をわくわくさせました。ヒロインたちはたいてい明るく個性的であり、思春期の少女たちにとってあこがれの的になるような存在でした。両親の不在は、こどもたちに彼らを束縛する家庭からの自由を与え、自立心旺盛で生き生きしたこども本来の姿が表れたと指摘する研究者もいます。とくにアメリカの少女小説に孤児が多いのは、19世紀の大英帝国(大人の男性)に対して建国して浅いアメリカ(幼い少女)という図式が反映していると指摘する研究者もいます。アメリカ以外に世界各地にも孤児の少女小説はたくさんあるので、英米の力関係だけが少女小説出現の決定的要因ともいえないようです。いずれにしても、天涯孤独な少女が苦境に追い込まれるが性格と行いが良ければお金持ちや幸せになるという教訓は、一般読者である少女たちに夢や希望を与えたことは事実です。