大妻多摩中学高等学校

【校長室より】『スター・ウォーズ、フォースの覚醒』(STAR WARS: The Force Awakens) ―アメリカンヒーローからアメリカンヒロインへ―

中高棟グラウンドの皇帝ダリア①
中高棟グラウンドの
皇帝ダリア

本作品は、2012年にウォルト・ディズニー社のルーカス・フィルム買収後に製作した『スター・ウォーズ』シリーズ第一作目。現ルーカス・フィルム社長でありプロデューサーでもあるキャスリーン・ケネディが製作、ジョージ・ルーカスに代わって『エイリアン』や『スタートレック』のJ.J.エイブラムズが監督をつとめています。時は1977年の第一作(のちに『エピソード4/新たなる希望』と呼ばれる)から30年後の設定であり、最近のディスニー映画が意識して自立した女性を登場させているように、本作品で初めて女性戦士レイがヒロインとして登場します。砂漠の惑星ジャグーで廃品回収をしながら家族を探しているレイは、ふとしたことから旧帝国軍の残党で組織されたファースト・オーダーと、レイア将軍(かつてのレイア姫)率いるレジスタンスの戦いに巻き込まれていきます。

『スター・ウォーズ』シリーズは、銀河系を支配しようとする帝国軍に対して、自由奪回のために反乱軍が正義と愛国心を掲げて戦うという意味でアメリカン・ヒーローの系譜を辿っています。これは西部劇のさすらいのカウボーイやスーパーマン、スパイダーマンなどのアメリカン・ヒーローの活躍とも通じるものです。もともとハリウッド映画は男性主人公の活躍を賛美する作品を量産していたのですが、70年代の第二波フェミニズムが起きても、ハリウッドは社会の変化にただちに反応することはありませんでした。ハリウッドがフェミニズムの動きに応えはじめたのは80年代以降のことですが、77年の『スター・ウォーズ』において、ハン・ソロやルーク、ダースベーダ―と対等に渡り合うレイア姫の存在は、脇役ではありましたが新しい女性の誕生ともいえるものでした。

『覚醒』では、第一作の『スター・ウォーズ』に登場したハリソン・フォード演じるハン・ソロとキャリー・フィッシャー演じるレイア姫が登場します。さすがに二人とも年齢を重ねましたが、久しぶりの再会にハン・ソロは「髪型が変わったね」と今は将軍となったレイア姫に話しかけます。彼女は両耳を覆うベーグルのようなヘアスタイルではなく長い髪を結いあげていますが、レジスタンスを率いる威厳は変わりません。彼らの登場と戦艦「ミレニアム・ファルコン」の活躍は、第一作をリアルタイムで見た私にはとても懐かしいものでした。

“May Force be with you”(「フォース(力)のご加護を」) 『覚醒』後半で中年のレイア将軍が若いレイにむかって『スター・ウォーズ』の名文句であるこの言葉を言います。レイは「家族探しをする少女」という、これもまたアメリカ文学の系譜を象徴する存在です。(このテーマについてはまたの機会に書きたいと思います) 新シリーズはルークやレイアの子どもの世代の物語ということが明らかになっていますが、レイがレイア将軍からこう言われることによって、貧しく孤独な少女レイが「フォース」を引き継いで、『覚醒』に始まる新シリーズの主人公になることが示唆されます。

本作品は『スター・ウォーズ』というタイトルどおり宇宙大戦争を描いたSFですが、旧シリーズを通じて、さらに新シリーズでも根底にあるのは家族の物語です。アメリカ映画、アメリカ演劇の半数は家庭劇であるといっても言い過ぎではないくらい、家族の在り方はアメリカ社会の変化を反映したものなのです。1950年代までは両親と子どもたちのいる核家族が主流でしたが、60年代に女性たちが閉塞感を訴えて自立に目覚めると離婚や非婚が増加し、家族の形態も多様化していきます。シングルマザー、シングルファーザー、再婚後の義理の両親と子どもの存在が当たり前になり、さらに同性カップルや養子縁組などにより新しい家族も生まれていきます。『覚醒』でもレイの家族探しに始まり、世代の交代、父と息子の確執などがじょじょに明らかになっていきます。美しくも思慮深く、そして身体能力抜群のレイは次回作でどのように成長を遂げるのでしょうか。レイの両親は誰なのか。彼女は両親と巡り合うことができるのでしょうか。

それにしても『覚醒』冒頭からの大量殺戮、いくつもの平和な星を見境なく襲撃していくファースト・オーダーの悪魔的破壊力には世界各地で起きてる戦争を想起させ、何もここまでしなくても、と暗澹たる思いがしました。とはいっても、ハン・ソロが操縦するおんぼろのミレニアム・ファルコンがカイロ・レンの最新戦艦スター・デストロイヤー・ファイナライザー相手に闘う姿は迫力があります。『スター・ウォーズ』の熱烈なファンでなくてもシリーズすべてを見ていなくても、レイという元気な少女の活躍を追うだけでも『覚醒』は十分見ごたえがあります。