大妻多摩中学高等学校

【校長室より】『14歳、明日の時間割』

『14歳、明日の時間割』―― 中学生作家、鈴木るりかさんの第二弾!

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「14歳、明日の時間割」
鈴木るりか

2017年に『さよなら、田中さん』で作家デビューした現在中学3年生の鈴木るりかさんの、第二作目の『14歳、明日の時間割』が発売されました。テレビや新聞で本作の出版を知りすぐに取り寄せました。デビュー作では、破天荒な母と二人暮らしの中学2年生田中花実を主人公に、彼女を取り巻く人々との交流を新鮮な視点で描き、この本は大ベストセラーになりました。

『14歳、明日の時間割』は中学2年生の1日の時間割をもとにした短編集ですが、1時間目の「国語」では、るりかさんをモデルにしたような文学少女明日香を主人公に、前作の田中花実の母のような大胆発言をする洋画オタクの母と、まったく活字を読まない父との生活を描いています。2時間目の「家庭科」では料理や裁縫が不得意な母のもとに生まれた葵が、母を反面教師として育ったからか家庭科の抜群の才能を見せますが、中心として描かれるのは家庭科部に入部してきた男子生徒の野間君の話です。3時間目の「数学」では、100点満点中たった9点しか取れなかった修也が、高校進学に向けて、肉親以外にも自分を思ってくれる友人の存在を知る話。4時間目の「道徳」は中学生の作品にしてはけっこう衝撃的。中学2年生の圭と父親不在の家庭に母が連れ込んだ「ヒモ」との生活について描いていますが、「道徳(ミチノリ)」という名前の「ヒモ」は家事にかけては母親顔負けの実力を発揮するのです。「昼休み」は、友達が出来ないために文学少女を装って読書をしながら一人で昼休みを過ごす山下さんが、声を掛けてくれた男子生徒に心をときめかします。そして全体の約半分のページを占めるのが5,6時間目の「体育」。運動嫌いで、体育さえなければと毎日思っている茜が自宅療養中の祖父とスポーツ万能の中原君の言葉によって成長していく話です。最後の「放課後」は中学生が主人公ではありません。「本当は作家になりたかったんだ」と言う国語の矢崎先生の、自意識過剰にしてほろ苦い作家人生を描いています。主人公の生徒の名前は異なりますが、要所要所で登場する、勉強もスポーツもできる「中原君」のいい人ぶりが主人公たちの心を慰めるのです。

鈴木るりかさんは小学生の時に小学館主催の「12歳の文学賞」を3年立て続けに受賞して、中学2年生で作家デビューするや、第2作目の帯に「奇跡の中学生作家」と書かれるようなベストセラー作家になりましたが、2作目を出版してもそのおごりは全く見られず、現在の自分が置かれた状況を実に冷静に客観視していることは本当に素晴らしい。「小説を書いている子だから、ちょっと違うのだ」とか「学校体制への抵抗の表れ、反骨精神の表明ではないか」と言われているかもしれないことを自覚しつつ、一方で大人をしっかり観察しているのです。若いころから作家志望にもかかわらずまったく芽が出ず、自分の教え子である中学生の明日香が小説賞の特別賞を受賞したことが妬ましい国語の矢崎先生の心情、つまり、自分に才能があるという大人の勘違いも巧みな視点で描いています。るりかさんのまわりに実際にそういう人がいるかどうかは別として、若くして文学賞を受賞したるりかさんが、普通ならかかわることのない編集者とか身近な大人たちを客観的に見ている点が面白いと思いました。

学校とか先生は日頃から正しいことや常識的で当たり前なことを言いますが、そういう学校生活を息苦しいと感じている生徒も少なからずいるのです。校長先生は「お友達をたくさん作りましょう」とか「学校は友達を作るところでもあります」と言うけれど、同級生から声を掛けられないように、ひたすら読書に没頭するふりをしてその場をやり過ごす生徒もいます。また運動の苦手な生徒にとっては、運動会は「待ちに待った」でも「みんな楽しみにしている」行事でもなく、「もっと一生懸命やれ」と言われたところで出来ないものは出来ない。みんなからは憐みの目で見られるのがおちなのです。学校では常に正しい答えが要求され、授業も部活も行事もすべて熱心に取り組まなくてはならならず、生徒は元気で明るくなければならない。となると、苦手科目があったり、友達のできない生徒にとって、学校は苦痛以外の何ものでもないのです。

最後を除いてどの短編も、るりかさんと等身大の中学2年生の男女の生徒の教科をめぐる様々な人とのかかわりが描かれていますが、前作と違うのは、短編の多くに「生」と「死」がテーマとして底に流れている点です。「どんなに絶望的でひどい状況でも、息ができるならまだ大丈夫だ」という小学校の道徳で習ったことわざを披露して、「ヒモ」の道徳君は、「道徳」の授業の重要性を説きます。「日常なんて一瞬で奪われるんだよ。自分では気づかないだけで、すぐ隣には、ぽっかりと大きな闇が口を開いているんだよ、誰しも」、と彼は続けます。また、自らの死期を悟った茜の祖父は、夢から覚めた時に30代のころに遭遇した野犬の話を彼女にしてきかせます。「どんな姿になっても、命の砂時計の最後のひと粒が落ちきる瞬間までは生きているんだよ。.....いろいろなことにだんだん諦めがついて覚悟はできているけれど、生きることを捨てたりはしないよ、最後まで」。

「全世代、泣いて笑える短編集」と帯に書いてありますが、目次が時間割になっているところがいかにも中学生らしいことに加え、一時間目の「国語」に登場した矢崎先生が、「放課後」にも登場するといったように円環をなした構成がうまい。14歳という瑞々しい視点に人生経験豊かな大人の視点がかいまみられるのは、るりかさんの豊富な読書体験に他ならないと思います。インターネットがどんなに発達しようと、絵本に始まり、古典から現代小説に至るまで、幼いころからさまざまなジャンルの本を読破してきたるりかさんだからこそ、このようなくすっと笑えてほろっとさせられる本を書けるのでしょう。来年には高校に進学し、さらに大学生になってどんな第三作、第四作が生まれるのか楽しみです。カラテカの矢部さんの、なんかふわふわしている挿絵もこの本にぴったりです。