大妻多摩中学高等学校

【校長室より】『かがみの孤城』

『かがみの孤城』、2018年「本屋大賞」にノミネート!

 

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今年度の「神奈川学校図書館員大賞(KO大賞)」、「埼玉県の高校司書が選んだイチオシ本2017」を受賞し、日本各地の学校で絶賛されたこの本は、2018年の「本屋大賞」にノミネートされますます売り上げを伸ばしているといいます。(「本屋大賞」とは、2004年に始まった全国の新刊を扱う書店店員が選ぶ賞です。)なぜこの本は司書の先生からこぞって推薦され、生徒たちに読まれているのでしょうか。それは、中学一年生のこころを主人公としたこの本の主要登場人物7人全員が不登校の中学生だからなのです。

学校に行こうとするとおなかが痛くなり登校できなくなったこころは、日中は学校の友達に会うことが怖くて外にもでることができず自宅に閉じこもりきりになってしまいます。こころを心配したお母さんは不登校の生徒が通う「心の教室」というフリースクールに彼女を誘いますが、うまくいきません。そんなあるとき、こころの部屋にある姿見が光り始め、彼女はその光に導かれるままに鏡を通り抜けると、そこはオオカミのお面をつけてフリフリのドレスを着た少女「オオカミさま」が管理する不思議なお城でした。意外なことにそこにはこころをいれて7人の同年代の少年少女が集められていて、「オオカミさま」によれば、城の中の「願いの部屋」に入る鍵を探して、その鍵で扉を開けた一人だけの願いが叶うといいます。

こころが学校に行けなくなったのは、かわいくて目立つ転入生と仲良くなりたいと思ったことが原因で、友達から無視されたり悪口を言われているような気になったのであって、友達とケンカをしたりいじめにあったわけではないのです。勝手に親友と思っていた子がほかの生徒と話していたことがきっかけで友達の輪にはいれなくなったこころは、休めば休むほどますます学校やスクールからも足が遠のいてしまいます。あとの6人の不登校の理由も、表向きは大したことはないようです。ときどき家まで訪問してくれる伊田先生も、こころを心配しているというより担任の義務のようにもみえるし、スクールの喜多嶋先生は話しやすそうだけどまだ話をする気にはなれません。お母さんもこころの態度に手を焼いているようにみえます。

554ページもあるこの本は、前半はこころを中心に7人の登場人物の少しずつの変化を追っていますが、取り立てて大きな事件が起きるわけでもありません。でも、不登校の少年少女のファンタジーかと思いきや、230ページを過ぎたあたりで驚くべき事実が明らかになるとともに、後半は雪崩のように、様々な謎が解き明かされ、予期できない結末に導かれます。

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どの子も、不登校になったのは明らかないじめに遭ったというより、ちょっとしたことがきっかけで同級生の目が気になったり、自分が笑われているような気がしたり、それは親の何気ない言葉だったり、でもその子にとっては自意識過剰という言葉では片づけられない重大なことなのです。彼らは聞かれれば「いじめには遭っていない」と答えるでしょうが、自分たちは学校になじめない落ちこぼれだという劣等感にさいなまれています。といって彼らは大人や同級生に同情されたくはない。「教師だって所詮は人間」、「もとの頭がオレたちより劣っている場合だって多々ある」と少年の一人は教師を批判しますが、学校や社会に疎外感を感じています。「オオカミさま」の城に来る不登校の生徒たちは、同じ境遇というだけで親しくなり互いにコミュニケーションをとりつつ成長していきます。そして城の外には家や学校や社会という彼らにとっては厳しい現実世界があるのです。

作者の辻村さんは、7人の中学生、母親、担任、フリースクールの先生、「オオカミさま」のだれに加担するでもなくフェアに書いたといいます。事務的に思われた伊田先生もこころのことを思って同級生との間を取り持とうと努力しますし、娘よりも仕事を優先しているようにみえたお母さんも、最初は彼女をどう扱ってよいかわからず苛立ったり距離を置いたりしますが、本当に心配しているのは母親だったことにこころも気づくのです。「友達とうまくやれなかったり、学校に行けなくなってしまったり。10代の子どもたちが、みんなとおなじ、“普通”のことができないという生々しい現実に直面したとき、大人になることそのものを恐れる気持ち生まれることもあると思うんですよね。......主人公のこころは中学生だけど、本作では、かつてこころのような中学生だった大人たちにたいしても、大丈夫だよ、大人になってもいいんだよ、と言ってあげられる小説になればいいなと思いました」と辻村さんはインタビューで語っています。

ふだん元気に登校していてもなんとなく友達の目が気になっているあなた、お母さんに対して素直になれないあなた、大人なんて何もわかってないと思うあなた、本心でなくても友達に対して思わずきつい言葉を言ってしまうあなた、もっと言えば、グループで誰かを無視したり、笑ったりしたことのあるあなた、そういうあなたは是非この本を手に取って読んでみてください。そしてお嬢様になんとなく距離を感じ始めた保護者の方たち、クラスの生徒の気持ちをつかみかねている先生方にも読んでいただきたい本です。

「孤城」とは「①ただ一つだけぽつんと立っている城。②敵軍に囲まれ、援軍の来るあてもない城。『大辞林』」と、本の1ページ目に記されています。