大妻多摩中学高等学校

【校長室より】『はみだす力』

『はみだす力』- 発想の転換

10月1日から3日まで「分断から共存へ 私たちが進む未来」というテーマで朝日新聞主催「朝日地球会議2017」が都内で開かれました。世界各国で起きる「分断」をどのように乗り越えたらよいかについて、「壁が世界を分断する?」、「子たちの未来を考える」、「建築で世界を駆ける」、「SDGsで切りひらこう」などのタイトルで、国内外の識者による講演や対談などが行われました。地球会議は2008年から開催してきた朝日地球環境フォーラムを含めると、今年で10年目になるそうです。

はみだす力①

私が参加したのはミュージシャンでメディアアーチストのスプツニ子(以下、スプ子と省略)さんの「ジェンダーを超えるアートの可能性」という講演。アートとテクノロジーを駆使した映像作品を通じて、果たしてアートはジェンダーを越境できるかというものでした。個人的に以前からメディアや雑誌などでスプ子さんの作品に関心がありましたが、実際にご本人の話を聞くのは初めてでした。代表作「生理マシーン、タカシの場合」(2010)のほかに自身の作品を紹介しながら、オーディエンスと対話をしながら、男女の体や性の違いをアートやテクノロジーの力を借りてその理解を深めようという講演はとても刺激的でした。「スプツニ子」という名前はソ連で開発された世界初の人工衛星スプートニクから、中学の同級生がつけてくれた名前だということです。

父は日本人、母はイギリス人でともに数学者という家庭に育ち、日本のインターナショナルスクールからロンドン大学数学科を卒業、英国王立芸術学院(RCA)の修士課程を経て、現在はアメリカのマサチューセッツ工科大学(MIT)の助教をしているというスプ子さん。日本の保育園に通っていたときハーフという容貌からいじめにあい、子どものころから人と違うことを意識して育ったと言います。

はみだす力②

著書『はみ出す力』には、「常識、思い込み、型、枠、国境、人種、時空、リアルとバーチャル」などを超えて成長してきた経験から学んだ、きわめてポジティブなメッセージが満載です。日本の公立小学校では「みんなと一緒じゃなくていい」、「普通を疑う」、「誰とも違う自分になる」、「今いるところが世界のすべてじゃない」という意識をもち、目標を決めて頑張った結果、中学校から通ったインターナショナルスクールでは学校対抗の数学コンテストで一位を取得します。「『正しいこと』を先生から教えてもらう日本の学校と、『何が正しいか』を考えるアメリカンスクール」という日米それぞれの学習スタイルにふれたことはとても良い経験になったといいます。17歳でロンドン大学に進学したとき、「高いレベルにいくには単に能力があるだけではだめ、その分野をすごく好きじゃないと難しい」と感じ、「なりたい!と何回も考えているとうまくなる」と、才能だけではなく努力が必要だと感じたと書いています。チャンスを待っているのではなく、自ら進んで取りに行くぐらいの積極性が必要だという彼女は「すごいことをやるには、危険を恐れず、猪突猛進なバカにならないといけない」と自覚します。

勉強のコツは「勉強しない時間を決めること、時間になったらきっぱり遊ぶ」姿勢が大切、受験勉強をしている高校三年生のみなさんにも参考になるかもしれません。さらに「型を知らないと型破りになれない」と書いていますが、このことはその道を極めるにはとても重要なことです。現状という枠からはみ出し、その道でプロと言われるようになるには、きちんと型を学ばなくてはなりません。ただ「好きだから」では一流になれません。スプ子さんは「直感を信じ」、「得意じゃないことも勉強し、やりたいことを実現する自分の表現ツールを増や」し、「自分のやっていることは価値があると信じつづける」かどうかは自分次第だと書いています。一方で「前進のない『楽しい今』は捨て」、「やりたいことをやるために、お金もちゃんと稼ぐ」ことが重要だとも語っています。

スプ子さんは「こうなればいいなという夢を、確定したスケジュールみたいに話す」こともよいのではないかと言います。私自身も実践していることですが、「願いは口にする、自分の力の10倍をイメージしてふるまうこと」も大切です。「できないかもしれない」とか「失敗したらどうしよう」というネガティブな言葉を口にしたとたん、あなたの負けです。

スプ子さんの作品を見ると、他人とはまったく異なる、他人が思いつかないような発想だということがわかりますが、著書には今まで必ずしも成功街道まっしぐらではなく、いくつもの挫折を味わってこそ言える言葉がたくさん書かれています。ハーフであることを最大限に使い、スプ子さんは自らがアート作品になることによって見る人に衝撃的な印象を与えます。自分は普通の人とはちょっと違うと気づいたこども時代から、「はみ出した力」をポジティブに使って自己表現したからこそスプ子さんの今があるのだと思います。著書やブログを読むと、彼女が口にする言葉は、人生を生き抜くうえでとても大切な、そしてスプ子さんのような才能のある人だけでなく、だれにでも通じる言葉だと感じました。